審査を振り返って

このサイトは、2020年度のACC賞ブランデッド・コミュニケーション部門の審査委員による審査の様子の振り返りの記録です。
この部門では、部門名を「ブランデッド・コミュニケーション」と定義していることに忠実に、ブランドの持つ課題に対して、どうアイデアや表現の実装が機能したかで評価を行いました。
広告の扱う領域や定義は広がっています。「ブランデッド・コミュニケーション」が扱う範囲は、社会課題に対する解決策など企業や商品・サービスを超えた領域のものも含まれます。評価される条件は、「与えられた、もしくは発見した課題に対してどこまで機能するソリューションが提供できたか」ということになります。

2018年の第1回の審査と2019年の第2回の審査と、今回審査との最大の変更点は、審査委員がカテゴリーごとに異なる点です。リアルで集まって20名近い審査委員が全カテゴリーを審査するという方式を変更し、各カテゴリー10名の審査委員(+審査委員長)で事前審査からゴールドの確定までを行いました。
みなさまご存知のように、2020年の審査はコロナ禍の真っ只中で行われました。春の時点ではACC自体が開催そのものを悩むレベルで先行きのみえない状況でしたが、完全リモートで審査を行うということで無事開催することが出来ました。
Zoomでのリモートの審査で、全員が十分に議論出来るようにすることを考慮して一回の審査の人数を絞らざるを得なかったということになります。
その代わりに、最後のグランプリ選定に絞って、審査委員全員が議論する時間をつくりました。

そういう状況の中で、審査は大きく4段階で行われました。
1段階目は、オンラインの審査サイト上で、審査委員それぞれが応募された全作品に1~9点で採点を行いました。(自分自身が関わった仕事は棄権となります)
2段階目は、オンライン審査の平均点(全審査委員を信用して最高点と最低点を抜くようなことはしませんでした)で一定以上の点数がついたものと、審査委員ひとりでも高得点をつけたもの(仮にひとりだけが評価していてもその方の意見をみんなで聞いてから判断することにしました)を残しロングリストとしました。(恣意性のないように統計的に判断しています)
3段階目は、そのカテゴリー審査委員でロングリストに残ったものを対面で議論をしながら審査を行いました。ひとつひとつ議論をしたら再投票を行い、その結果の点数でどこまでをファイナリストとして贈賞するかを議論して決めました。同様の手順で、ブロンズ以上、シルバー以上、ゴールド以上、グランプリと議論→再投票→線引という流れで審査を行っていきました。ここでは前年から導入したファイナリスト以上に残った全ての作品に対して議論をして全てに対して再投票を行うというシステムも踏襲しています。
4段階目は、全カテゴリーの審査委員全員で、グランプリ(そしてグランプリ相当の特別賞)を確定させる議論を行いました。3つのグランプリを確定させる議論なので短時間で終わると思っていたら、相当な時間を割いて濃い議論がなされました。

結果、3段階目の
Aカテゴリーの審査に6時間50分、
Bカテゴリーの審査に7時間30分、
Cカテゴリーの審査に8時間、
4段階目の、グランプリ選考会では審査委員全員で6時間をかけて議論を行いました。

この振り返りの記録では、3段階目の再投票前に行われた議論と4段階目のグランプリの選考を振り返ったものになります。この長時間の細部まで渡る熱心な議論を経て贈賞の色を決めていますが、それはあくまでもこの時点での審査委員たちによるひとつの意見に過ぎませんし、当然、絶対の評価ではありません。それでも、審査会の場で審査委員によって真剣に行われた議論が、広告の企画制作に関わる方々にとって色付け以上に役立つものであることを願って公開致します。審査委員の皆さまと、議論の対象となっているプロジェクトの関係者の皆さまのご理解とご協力に感謝致します。本当にありがとうございます。

2020年ブランデッド・コミュニケーション部門審査委員長 菅野 薫

Aカテゴリー(デジタル・エクスペリエンス)

菅野これはプロジェクト名そのままのサービスで、記事を読んで気になった企業にアプリから直接投資できるシンプルなものでした。例えば、ソニーが何か新しいプロダクトを発表したことが記事で紹介されていて、それが市場に良い傾向をもたらしそうだなと思ったら、その記事からシームレスに株を買えるようになっています。

尾上「なんで今までなかったんだ」というくらい、ど真ん中のサービスですよね。

菅野今日ご欠席のレイさんから事前に、このプロジェクトに関してコメントをいただきました。「このアイデアのすごいところは実装したところだ。一見シンプルに思われるアイデアだが、実現するのは簡単なことではない」。非常に力強いコメントでしたね。

イムでも、本当にめちゃくちゃいいサービスです。自分は投資の習慣がなかったのですが、これを見て初めて、記事を読んで共感できる会社があったら株を買ってもいいなと思えました。

尾上ゼロから立ち上げてPV数もしっかりついてきているし、「こうやって株を買うほうが自然だよな」と思わせられたサービスでした。すべての記事にこの機能を付けたほうがいいんじゃないのと思ったくらいです。

八木僕は資産運用に役立つだけでない、大きな意義があるサービスだと思います。「1円から始められる」とか「ポイントを投資できる」とか、いろんな投資サービスが「手軽に儲けられる」ことに注力している中、これは本質的に「株を買うってどういうこと?」という意味を教えてくれていると思いました。

佐々木僕も同意見です。「株を買う」ってことは資産運用だけじゃなく、「その会社を応援する」という意味もありますよね。そこを啓蒙している部分もあり、投資にパラダイムシフトを起こそうとしている素晴らしい取り組みだと思いました。

イムサイトもよくできていましたね。わかりやすく使いやすく、デザイン的にもクリーンでお金のイメージを和らげていた。ユーザーとの距離感を縮めようとする努力を感じました。

――ポカリスエット「ポカリNEO合唱」篇 60秒――

菅野ブランデッド・コミュニケーション部門内でも、複数カテゴリーに応募されていてそのいずれでも事前審査から高く評価されていたプロジェクトでした。ここでの議論はAカテゴリーの評価対象であるデジタル体験としてどう評価するかを議論しました。改めて、このプロジェクトは、制作中に急激にコロナ禍になって、すぐに演出案の方針転換をして、中高生のキャストたちとステイホームの状況下で作り上げた作品でした。完成した動画はCMなのですが、その制作プロセス自体はデジタルを最大限に活用した。今だからこそできるデジタル技術を活用したソリューションでした。

尾上以前からポカリスエットは、SNS上でダンスの参加者を募集して撮影するということをやっていて、今回の施策はその延長線上にあると考えると、まさにデジタル・エクスペリエンス的なものから生まれた映像だったと思います。デジタルキャンペーンがマスキャンペーンに乗り代わったというか。

菅野CMがある前提で、「それをみんなもやってみよう」と投げかけていた参加型のサブ的な企画が、コロナ禍になって本編になったということですよね。

清水ただ、オンラインでいろんな人から素材を集めて作るという動画は前からありました。コロナ禍だから手法が有効に作用したということはわかるのですが、手法それ自体の新しさを評価するかと言われたら、そうではないよねとも思いました。

石下私も手法としては定番になってきているものだとは思いました。でも、中高生たちのセルフィーの撮り方がSNS的で、ブランドのターゲットである中高生たちのリアルな生活に近いんですよね。その意味ですごく新しい表現手法ではないけれども、今の彼ら彼女らのリアルを表現したものとして評価したいと思いました。

イム今この作品を見たときに、時代と合致しているし、何よりも質が過去の似た手法を使った作品を凌駕していると個人的には思っています。これで質が劣っていたら微妙ですけど、圧倒的に勝っているから、そこを評価しました。
それに、これはデジタル・エクスペリエンスでもあると思います。最近は映像通話が一般化してきて、生活の中にこういうデジタルツールが溶け込んでいる。だから、「自分で撮影した映像」という点を強調すること自体が、デジタル・エクスペリエンスの表現になっているんじゃないかな。

栗林僕もデジタル・エクスペリエンスだと思うのですが、セルフィーの中に大人が撮影した映像も入っているのは気になっちゃいました。今って純度が動画の伸びる要素として重要なので、そこがほんの少しネガティブに作用している部分があるなと。

八木やっぱりタイミングが最大の評価ポイントでしたかね?

佐々木タイミングもあるし、インサイトもありましたよね。学校も休校になっていく中で、外に出たい、友だちにも会いたいというターゲットの気持ちを表現できていると思います。

菅野こちらも本日ご欠席のレイさんからコメントをいただいております。「僕が10代の頃に音楽に触れるメディアといえば、テレビやラジオ、そのあとはミュージックビデオが王道だった。それも廃れてしまった今、このプロモーションには新しい可能性を感じた」。自身のYouTubeチャンネルをうまくハックして、ファンに議論を巻き起こした施策です。

栗林アーティストが謎を提出して、その答えをユーザーに推理させる取り組みは過去にもありました。でも、これは動画のサムネイルを使ったという点が、メディアの使い方としてとても新しいと思いました。謎が複雑すぎず、頑張れば解けそうに見えるバランス感も絶妙で。今はSNSでユーザーに謎の答えを議論させる手法が定番化していますが、その中でも秀逸な取り組みでした。

菅野こういう緻密が問われる企画は往々にして企画倒れに終わったりするのですが、しっかり細かいところまでちゃんとやりきっているのがすごいと思います。

清水YouTubeは投稿した動画を差し替えられないじゃないですか。でも、サムネイルは差し替えられるから、そこを使うというアイデアがとても賢いですよね。既存のファンから起爆するってやり方と、サムネイルを活用するってアイデアと、ちゃんと楽曲の世界観に落ちるという点まで、よく考えられた企画だと思います。

保持ファンの動かし方をわかって作っていますよね。単なるギミックで終わっていない。

菅野デジタルメディアならではの盛り上げ方といい、時代性といい、文脈の作り方といい、ブランドへの落とし込み方といい、すべてが整っている施策で、このカテゴリーでこそ評価するのにふさわしいと審査委員が感じたのではないでしょうか。非常に高く評価されたプロジェクトでした。

菅野構造としてはシンプルな施策です。小学館の「図鑑NEO」の表紙を、自分の好きなもので作れるサービスです。みんなが知っているものは大喜利的にいじって遊びたくなるという普遍的な心理をついた定番の企画といえますが、ちゃんと機能させていますよね。

清水自分が個人的に愛を注いでいるものが図鑑になることで、オフィシャルに認められた気になれるというか。手法と題材の組み合わせが素晴らしいと思いました。

米澤小学生にこれが届いたら、「あなたは何を好きになってもいいんだよ」というメッセージになるところも素敵だと思いました。大人たちが大喜利的に遊ぶだけじゃない視点もあるのがいいなと感じます。

八木素晴らしい施策だと思いつつ、表紙だけで中身がないことの喪失感がちょっと残念でもありました。

佐々木僕も基本は大賛成なのですが、こういう「○○メーカー」は過去にもたくさんあったので、好きな人同士が集まれるようなコンテンツ作りまでいってほしかったなという気持ちはありました。

菅野強い機能はしているし、いいメッセージのある素敵な施策だけど、構造のアイデアの新鮮さがあまり感じられなかったところが、やや評価が下がってしまった点だったのかもしれません。

菅野オンライン会議をテーマにした参加型のホラーコンテンツでした。

栗林昨年はオンラインコンテンツがたくさん出た中でも、これはかなり異色の作品だと思っています。ユーザーがオンライン会議に参加する形式ですが、実は1人でプレイできて、ほかに表示されている参加者はダミー(録画映像)なんですよね。それでもリアルタイムで一緒に遊んでいるような感覚になれます。
プレイ時間も10分くらいで収まって満足感がある。だから、YouTuberがこぞってプレイ動画を投稿したんです。その設計がうまくて、オンラインコンテンツにもかかわらず、YouTubeでの体験動画が1000万再生以上を記録しています。個人的に嫉妬しました。

清水演出面でもオンライン会議ならではの、音声が途切れたり、フリーズしたりといった「あるある」をギミックとしてうまく取り入れていて、2020年のコンテンツとして芯を食っていると思いました。

菅野ひとことで言えば、VRのアバターのファッションショーでした。

尾上僕は好きです。ファッションショーは実際に作られた服を着るものでしたけど、これはVR空間でアバターが着る前提ということで、服自体も「VRでしか実現しない服」を作ったりしている。ショーだけで終わらずに、ここからほかのアバターもバーチャル上でこの服を着たりすると考えたら、現象の始まりを作っているというか。日本ならではの試みだと思いました。

菅野時代の変わり目を感じる施策でした。

尾上しかも、コロナ前のリアルイベントだったから、そのすごさが伝わりやすかったのも面白いと思って。

菅野会場にLEDパネルを設置して、アバターにランウェイを歩かせたそうです。確かに完全なバーチャル開催だったら、何が新しいのかわかりにくかったでしょう。こうしたバーチャルな服を売るターゲットは、現状ではVTuberになるのでしょうか?

米澤バーチャル上のファッションという現象はVTuberだけじゃなく、ゲームの世界でもけっこう多いです。スマホ版『どうぶつの森』でも着せかえアイテムが有料で売られています。だから、自分のキャラクターに好きな洋服を着せたいという欲望は意外に広くあるような気がします。そういうジャンルを提唱したという意味では、面白い取り組みだと感じました。

栗林会場での体験としても、LEDパネルをフルで使った演出が面白かったですね。CGのクオリティとしても従来のものを凌駕していると思いました。

菅野石下さんのワイルドカードでした。
※(審査委員は事前のサイト審査の時点で、審査委員みんなで議論したい作品にワイルドカードという印を投票可能な仕組みになっています。ショートリスト以上の作品は全て議論の対象になるので、恐らく他の人は評価しないが、自分はすごく良いと思っているとか、放っておくと流れてしまうが是非ちゃんと議論したいと思っている作品に使う場合が多いことになります。)

石下みなさんがどういうふうに見たかな、ということを聞きたいと思いました。YouTuberのあさぎーにょさんのいつもの動画かと思ったら、見ている途中から物語がループしていることに気が付く。20分もある動画なんですけど、その違和感で全部見てしまうんです。そうした設定がまず「すごい」と思いました。
起用するYouTuberの文脈を活かしながら、新しい驚きを生んだデジタル・エクスペリエンスになっています。見た人だけがわかる仕掛けがあるので、SNSで話題にしたくなる。『カメラを止めるな!』とか『テネット』といった映画のように、ネタバレを言いたい、けど言えないという感じも、SNSのツボを抑えています。
ただ、ブランデッド・コミュニケーションとして考えたとき、デカビタCが一瞬しか出てこないので、「本当にこの商品に落ちているのかな?」という見方もあると思います。それでもこのコンテンツをサントリーさんがスポンサードして、世界で計4500万回再生もされたという意味では、企業ブランディングとしてプラスになったのではないでしょうか。

菅野再生数の稼ぎ方と反響の大きさがYouTubeっぽいですよね。物語の構造も凝っていて、僕も面白いと感じたのですが、おっしゃるとおり、ブランデッド・コミュニケーションという視点で、デカビタCのブランディングにどれだけ寄与しているのか。そこが論点だと思いました。

尾上僕もコンテンツとしての練度は高いと思います。サムネの選び方もすごい。あれで「なんだろう?」と思って見ちゃいました。ただ、「こういう仕事がこれから増えるだろうな」と感じている中で、商品の出し方は正解なのか。そこで採点を悩みました。
何分出せばいいってことでもないし、最後に「提供」と大きく出せばいいってことでもない。デカビタCが持っているキャラクターと合っていればいいのか。要するに、どうしてデカビタCがこのコンテンツをスポンサードしているのか。その納得感がどこかで担保されていれば、より良かったと思いました。

佐々木今やるべきことをちゃんと押さえている。クオリティも高い。このあと真似するのは難しいなというレベルで注目していました。しかし、僕も一般の人が見たときにデカビタCがどれだけ印象に残るのかは疑問がありました。

石下これに関しては企画の起点が従来の動画広告とは違うのかなと思いました。商品をどれだけPRするかよりも、映画のプロダクト・プレイスメントに近いのではないでしょうか。最後に提供として商品が出て、ターゲットの人に「サントリーちょっといいかも」と思ってもらいたいという狙いだと理解していました。

保持審査のときみなさんのお話を聞いて、この類のチャレンジをもうちょっと高く評価してもいいんじゃないかと思いました。「こうすればもっとブランデッド・コミュニケーションっぽくなるのに」と感じてしまうのですが、20分もある動画を最後までちゃんと見せる。しかも、商品をなかなか見せない勇気。そのバランスがギリギリのところで成立している。デカビタCのキャラクターとも、動画のトーンはそんなに離れていないと思っています。そのくらい仕上がりが素晴らしい。

菅野難しいですね。いかに商品を印象づけるかではなく、プレイスメントとして意図されているのだとしたら、とても巧妙に作られていると思います。ただ、ここはプロダクト・プレイスメントを評価する場なのか。そうではないのか。いま議論する意味があると思いました。『君の名は。』をスポンサードした企業も凄くかなり印象に残るよね、という話も、ちゃんとここで評価していきたいですね。
とにかく企業の言いたいことだけ言って人気を獲得するのが困難になっている中で、これはコンテンツのファンにブランドに触れさせることを上手に機能させていると思いました。

佐々木誤解がないように言っておくと、決してデカビタCがあまり出てないから評価が難しいということではなくて、この動画の内容だったら、いっそデカビタCを飲まなくても良かったと思うんですよ。それでもデカビタCの気分は伝わる動画になっていると思います。そこまで大胆なことはやっていないから、「広告としてどうかな?」という議論が残ってしまった。商品は出さないくらいの潔さがあったら、素直に高く評価できたと思います。

保持プロダクト・プレイスメントを最初に考えた人が褒められたように、今後間違いなく増えるだろうこの手法の先駆者として、しかもいきなり高いクオリティでやったということを僕は評価しました。

菅野この作品は再投票の結果、多くの審査委員からの評価が上がり、事前審査では圏外だったところからのシルバー受賞となりました。

八木クオリティが高い動画で、上京したばかりの頃の思い出が蘇りました。森ビルが目指す東京の姿が自然と伝わってきて、ブランデッド・コミュニケーションとして評価したいと思いました。

イム僕もめちゃくちゃ好きなんですよね。ただデジタル・エクスペリエンスとして、どう評価したらいいかわからなくて。

尾上フィルム部門がふさわしい気もしました。

保持デジタル・エクスペリエンスとしてSNSの使い方がすごくうまいとか、そういうところが強調されていると評価しやすかったですね。

尾上これは見事にうちの子どもがハマっています。番組で見たコンテンツがスマホでそのままできて、沼のようにハマっていくんですよ。音を起点とした教育コンテンツは初めてのものではないと思うのですが、テレビ番組だけではなくイベントも展開している。今後もいろいろなコンテンツに派生していきそうです。
デジタル・エクスペリエンスから番組を見て、それが子どもたちの心をわしづかみにする。デジタルからマスに誘引する仕組みとしても、よくできていると思います。

菅野これをどうブランデッド・コミュニケーションと捉えるかは課題ですが、確かにターゲットに複合的に訴求したデジタル・エクスペリエンスという意味では、きれいに成立しています。

八木うちの子どもはまったく興味を示さないんですよね。ただ、主題歌も耳に残るし、いいコンテンツだとは思いました。

菅野YouTubeの公式動画が累計で1.2億再生以上ということは、相当に濃いリピーターが生まれているんだろうとは察します。そう考えると、NHKというクライアントに対して、そのブランド価値を高めることにも成功していますね。

米澤今は動画全盛期で、音すら出さずに動画を見る子どもが増えている中、「音を聴くことを大切にしよう」という教育上のメッセージは重要だと思いました。
主人公のシナスタジアという女の子がかっこいい半ズボン姿なのも評価したいです。子どもが見るコンテンツでステレオタイプを作らない。そこも今、大事な視点なのでとても好感を持ちました。

栗林ポジティブな意見をSNSで集めるのはよくあるのですが、ネガティブな「買わない理由」を集めて、ちゃんと分析したのがすごいと思いました。

石下いわゆる自虐ものは過去いくつもあったと思います。でも、これがクライアントへの説明の仕方として勉強になるのは、ネガティブな意見を集める理由として、「将来のリニューアルのためにユーザーの声を聞きましょう」としているところです。

菅野SNSをうまく活用して話題を作ったという意味でも、デジタル・エクスペリエンスとしても違和感がなく評価したい仕事でした。

イム拡散している意味では評価できるのですが、「買わない理由」を100円(Amazonギフト券)で買い取るキャンペーンが紐付いているじゃないですか。僕もプレゼントキャンペーンは何回かやったことがあって、特典が付くと参加者は増えるんですよね。だから、仕組みの工夫で拡散していると素直には見えなかったのはあります。

栗林僕はこれが10円でもワークした企画に見えて。「買わない理由」にお金をあげる逆転構造が評価すべきポイントじゃないかと思っています。

保持プレゼントキャンペーンだけで終わっていたらイムさんのご指摘のとおりだと思うのですが、それがメディアに取り上げられて、より広がっていくところも含めた設計だと思うので、十分に投資を回収できたいいアイデアだと思います。

石下それに100円の買取キャンペーンが終わっても、SNSのつぶやきが終わらなかったので、みんなの「参加したい」という気持ちを刺激できたんだろうなとも感じました。

菅野有名なCMシリーズをコロナ禍のタイミングに鮮やかなかたちで再編集したもので、大きな反響を呼びました。これもデジタル・エクスペリエンスとしての評価は、どうすべきか難しかったですね。フィルム部門に評価を委ねるべきではないかという声もありました。

清水私はニューヨークにいるので、「日本で話題になったバイアス」があまりかからない立場にいると思うのですが、評価ポイントとしては、コロナ禍に対応したコンテンツを高いクオリティで作ったということなんでしょうか?

菅野それもあるのですが、ここでの審査ではデジタルならではの新しい体験が作れているかどうかも重要な評価基準。その意味でこの作品は、どうしてもテレビCMがあった延長にYouTubeにも置いたと見えてしまうという指摘がありました。

尾上僕はテレビCMの延長と感じてしまいました。シリーズの再編集も平成から令和になるタイミングでやっていたので、それほど新鮮味もなかったという印象でした。

菅野2017年に「宇治市を題材にした架空のゲーム実況動画」を作って話題にはなったけど、観光客の誘致にはつながらなかった。そこで今度は実際にゲームを作り、そのラスボスが宇治市を訪れないと倒せない仕様にすることで、観光客の誘致に成功したという作品です。

米澤実際にダウンロードしてやってみましたが、アクションが苦手なのもあって、意外と難しかったです。でもアプリのレビューを見ると、ハマる人もけっこういるみたいでした。

八木僕もダウンロードして子どもと一緒にやりました。キッチュでバカバカしくて面白かったです。宇治市みたいな自治体でこういうことができるのはいいなと思います。

尾上制作費をふるさと納税で賄っているところが、僕はすごく好きでした。

米澤よくこんなに集まりましたよね。みんなのお金を集めてしょーもない(褒めてます!)ギャグを随所に散りばめたゲームを作った。そこがいいと思いました。

菅野大規模に建て替えたりする予算がないので、いろんなテクノロジーを上手に使って、PRとしても話題になるホテルを作りましたという施策でした。だから、「もっとホテルを面白くしてほしい」というお題にどう答えたか。そこが評価の対象になったかと。

尾上こういった方向だと、「変なホテル」みたいな先行事例がありますよね。ただ、あちらは受付を無人にしてはいるけど、ホテルとしての体験は従来の延長線上として設計されています。でも、こちらは部屋そのものに工夫をして、ホテルなんだけどエンターテインメント施設みたいになっている。そのときに最先端の技術ではなく、みんなに馴染んでいる技術を活用して面白い体験を作り上げた。そのコストの掛け方のバランスがすごくいいなと感じました。

栗林僕もそこがいちばんいいと思いました。最先端の技術じゃないから誰でも楽しめるし、売り上げにも寄与する。サステナブルにビジネスを成長させるものになっていると思います。それにSNSでもバズっていました。

菅野話題化する方法も上手ですね。

清水宿泊という機能を提供するだけじゃなく、「ここに泊まったよ」と言いたくなる。ホテルというものに対するコミュニケーションの仕方を変容させているところが新しいのだと思いました。

菅野「変なホテル」と名前が似てしまっているところがちょっともったいなかったかな。

清水本質的にはけっこう違うのにね。

保持ホテル業界にはいろんな課題がある中で、「とにかくインスタで撮影させて話題にしよう」っていうところも感じたのですが、何度も行きたくなる人はどれだけいたのでしょう。

八木僕も手法としては面白いと思いつつ、京都のホテルと考えたときに、少しチープに見えるかなという点が気になりました。

菅野上位の中でも評価が分かれた作品でした。「AIしかいない世界」というゲームの設定を伝えるために、AIがポジティブな返答してくれるSNSを作ったという施策でした。

栗林施策としては面白いと思いました。SNSの功罪について議論を提供するものにもなっているし、まだ世の中にないサービスとしてやりきってもいる。僕が引っかかったのはゲームの『ソードアート・オンライン』とのブリッジのさせ方です。
僕は『ソードアート・オンライン』が大好きなんですけど、ゲームのシズル感とまったく違うんですよ。このサービスに触れてゲームがやりたくなるかというと、それは難しいかなと。ゲームの魅力を伝える方法がもっとあったのではないかと感じて、高い点数をつけにくかったです。

佐々木僕は点数を高くつけました。ゲームのアピールポイントがたくさんある中で、SNSの功罪というゲームそのものとは違う入り口から議論を呼んで目を向けてもらうという意味では、よくできた施策だと思いました。

栗林現実のSNSだと生身の人間に悪口を言われて傷つくけど、じゃあ優しいAIに囲まれていたら幸せなのか? という問いかけですよね。ただ、それがゲーム自体にどれだけ関連しているかというと……。

石下私もこの作品を見てもゲームの内容は特にわからなくて、だからブランデッド・コミュニケーション部門としてはどうかなとは思いつつも、問題提起として面白い、今っぽい施策だとは感じました。

菅野社会的なインサイトを捉えているし、「なるほど」とは思うのですが、ゲームの内容を伝えるところまですべての連携がきれいに整っているかと言われれば、ちょっと疑問はあったかもしれないですね。

栗林ゲームのトンマナとの違いが大きいですよね。作品のファンの規模を考えると、施策のリザルトはもっと出ると思うんです。しかし、登録ユーザー数を見ても、やっぱりファンから見て、引っ掛かるポイントが少なかった影響ではないでしょうか。

菅野これも高く評価した人と、そうでない人がけっこう分かれた作品でした。

清水既存のベネッセユーザーに届けたかったのか。それとも新しい層を開拓したかったのか。そこを知りたかった。

菅野狙いたいターゲットが概要説明だけではよくわからなかったですね。

清水外に広げていきたかったのだとしたら、そこの実績も教えてほしかった。

菅野普段の授業ではなくて、ここであえてピコ太郎さんとか特別な講師を起用した理由も知りたかった。

佐々木僕は高い点数をつけました。このコロナ禍でオンライン授業のやり方をいろんなところが模索している中、スピード感を持って実施しただけでなく、新しい教育コンテンツまで手掛けた。しかも、子どもの集中力を高めるために、チャイムや時間割という学校で身についた習慣を活用したのも、よくできていると思いました。

石下私もスピード感が何よりすごいと思いました。緊急事態宣言が出た直後の4月10日に開始して、子どもたちが見たい・学びたいと思える膨大な量のコンテンツを作ったのが素晴らしかったです。

菅野ターゲット戦略などでのはっとさせられる部分はなかったかもしれませんが、実施タイミングの的確さと、やっていることの正しさが高く評価されたポイントでした。

イム審査するために映像だけで見たときはピンと来なかったんですよね。でも、実物を見たときに、映像から受けた印象の何倍も大きく、圧倒されるスケールの会場になっていて。インフォグラフィックスも含め、全体が洗練されていました。何よりも都市データをプロジェクションする操作パネルのUI(ユーザーインターフェース)の作り込みが素晴らしくて、実際のスケールに触れないと、この作品を正しく評価できないという印象でした。

菅野森ビルさんは過去に都市模型を使ったプロジェクションマッピングを以前もやっていて、そのときはウェブで見る作品だったと思います。それが今度は現場で見られる体験型になった。だから、紹介映像や模型そのものというより現場での体験の仕組みを評価すべきですよね。それがデジタル・エクスペリエンスとしてうまくできているかどうか。

イム技術的な新しさはないかもしれないけど、体験としては抜群でした。作品としてのクオリティが単純に高かった。

菅野これで森ビルがどういう未来を思い描いているか具体的にわかるというより、エモーショナルな訴求という印象が強いですね。このくらい大きな規模で都市を考えている。それが伝わってくるところが、この作品の良さだと思いました。

菅野オンライン上でのオリジナルユニフォーム作成サービスなのですが、スポンサー企業ロゴをユニフォームに入れると、ユニフォーム価格が割引になる仕組みに特色があります。

保持これが面白いのは、スポンサー名がついていたほうが、実はユニフォームとしての魅力が出るところです。ユーザーの心理をよくわかっていると思います。安くなってうれしいというより、「うちのチームにはスポンサーがいるんだぜ」という喜びがある。今までなかったのが不思議なくらいです。

清水ただ、サービスとしてのUX(ユーザーエクスペリエンス)は、もっと改善できたのではないかと。

イムユーザーと企業のマッチングサービスとして面白いんですけど、僕もサイトの作りはなんとかしようよとは思いました。

菅野企画としては面白い。でも、デジタル体験のデザインのプロからすると体験の質には向上の余地があるということでした。

Bカテゴリー(プロモーション/アクティベーション)

菅野キウイフルーツの認知向上のため、ブランドとして愛されるものになるべく、シンボルとなるキャラクターを作り、それをすべてのタッチポイントに浸透させていった リ・ローンチ施策でした。

井上きのこのキャラクターを使用して、ホクトがPRをしていたときと近い印象を受けました。スーパーマーケットで売られている生鮮食品は、産地や生産者など必要な情報をストレートに伝えているものが多いですが、その中で、キャラクターのかわいさで、パッと目を引いていることが、まず魅力的だと思います。
CMもすごく印象的ですね。スポーツなどで頑張りすぎずとも、キウイを食べるだけでヘルシーな生活ができるというメッセージが、今の世の中の気分にあっていて、素敵なブランドに感じられました。

菅野ブランドの顔つきを作り、しかもかわいらしいキャラクターになったことで、予期しなかったコロナ禍での運動不足な状況に対しても、メッセージが受け入れられやすかったところもあったでしょうね。

畑中今回審査した中だと、個人的にはこれがいちばんお茶の間の人までが知っているプロモーション/アクティベーションなのではと思いました。実家に帰るとうちの母親が「ゼスプリ買っておいたよ」と言ってきたりして、もはや「ゼスプリ=キウイ」の代名詞になっているんですよね。それはすごい実績だし、このプロモーションというカテゴリーで評価されてほしいと思いました。

保持この「キウイブラザーズ」自体はリ・ローンチの前から展開されていました。概要説明ビデオを見ると、昨年のエントリーはあくまでロゴ刷新をきっかけとした、それまでの1年間のリ・ローンチの成果としての応募になっているので、愛されるキャラクターを作った部分と、純粋にこれまでの1年での実績のどちらを評価したらいいのかなと迷いました。

菅野ロゴ刷新以降に限定した場合の評価と、キャラクターの浸透による評価は、僕には厳密に切り離して考えるのは難しかったなあ。

保持キャラクターの資産をより活かすようにロゴやパッケージを変えたとビデオでは語られていたので、そこは切り分けて見てくださいと解釈できるようになっているのは、むしろもったいないと感じました。

菅野でも、前年、その前年もエントリーされていましたからね。

保持そうだったのか。じゃあ、審査までの1年に限定したほうがよかったってことですね。

上西でも、以前のエントリーではキャラクターの魅力だけを評価の対象にしてもったいないと思っていました。今回はリ・ローンチのタイミングで効果を説明するパンフレットを作り、総合的に評価されるように仕上げているので、数年間の蓄積が今年に表れていると見てもいいと思いました。
あとは店頭で愛されるキャラクターを作るのは単純に難しいですよね。いろんな企業がチャレンジしているけど、その中でしっかりキャラクターを定着させ、ぬいぐるみがプレゼントされるから買おうとか思わせている。それだけでもプロモーショナルでアクティベートしているなと感じるし、キャラクターやブランドの認知度は、このリザルトよりもっと上がっているのではないかという体感がありました。

菅野キャラクターの人気がちゃんと販売増につながるように、プロモーション全体を再設計したということで、この1年の取り組みだけでも評価できる部分は多々あると思いました。

東畑過去の蓄積がついに結実した感じがあります。どうしてもプロモーション/アクティベーションって花火のような施策が目立つじゃないですか。でも僕自身、食品やスーパー周りの仕事が多いんですけど、店頭で売り場を作ってもらうのは難しいんですよね。
そうした中でスーパーに行くと、売り場にこのキャラクターがちゃんといる。それは店頭の人を動かす地道な取り組みをしないとできないことで、誠実さの表れだし、今後もブランドの価値として蓄積されていく財産だと思います。

原野CMも新聞広告もよくできていますよね。

細川広告畑じゃない人たちがSNSで、「ぬいぐるみがほしい」「めっちゃかわいい」とつぶやいているのを目にするので、ファンを確実に育てているし、ブランドの人格を作ったいいキャンペーンだと思いました。

菅野「雪見だいふく」の新しい味や食べ方を開発するため、SNSで生活者からアイデアを募っただけでなく、20社を超える企業とも共創したキャンペーンです。

原野まず「雪見だいくふう」というネーミングがうまいし、取り組み自体も時代を先取りしています。メーカー同士が競争して、コンビニやスーパーの棚に毎シーズン新商品を送り込むのはサステナブルじゃないから、共に手を取り合って新しい価値を作っていくのは、経済の大きな流れにも合致していると思いました。
それに生活者やメーカーの開発者の中には、「だいくふう」したい人が、こんなにいるとわかったことも大発見だと思っていて。既存の商品を工夫することで世の中に貢献する。それを可視化したとも解釈できると思い、高い点数をつけました。

畑中「競争」じゃなくて「共創」であるという説明が、審査委員である僕らがまとめるべきことを代弁していますよね。テーマに共感する人たちとみんなでともに作り上げていくキャンペーン。それが最近の大きな潮流になってきている中、今回の主軸はロッテさんだった。じゃあ次はコラボ相手の永谷園さんが一緒に何かやりたいと言い出したときには、ロッテさんも協力するだろうし、そうやって1回で終わらない継続的な共犯関係が続いていってほしいです。
企業コラボの相手がちょっと斜め上を行っているのもいいですよね。こういう機会だからチャレンジしてみようという姿勢が、お客さんにも伝わって広がっていったところもあると思いました。

菅野いろんな会社が出し合ったアイデアをつなぐには、広告会社の力が役立ちそうだということも含め、僕らの存在意義を発見してくれているのも良かったです。

小布施いわゆる王道のレシピ投稿企画を、ここまでの規模で統合させて、やりきっているのはすごい。企業や生活者がどんどん入り込めるすき間を残すことで、キャンペーンの話題が広がっていく仕掛けが組み込まれているのは、とても素敵なキャンペーン設計だと思います。

小杉企業や生活者のアイデアを取り込むところで、その提案にどれだけ幅があったとしても、真ん中に「雪見だいくふう」という太い骨格のネーミングがあったからブランドが揺らがなかったうえに価値が上がったと思うんですね。商品の本質を捉えたうえで広げていることが、ネーミングだけじゃなく、キャンペーンロゴやショップの細かいデザインからも感じられるので、高く評価したいと思いました。

菅野ブランデッド・コミュニケーション部門内でも、ほかのカテゴリーでも出品されている施策ですが、プロモーション/アクティベーションでは、リモート撮影で完成したCMに触発された学生たちが、思い切り歌える場をTikTokに用意。そこからミュージックビデオも制作・公開するなど、合唱プロジェクトの広がりまで含めたキャンペーンとしての出品になっていました。

東畑僕はTikTokの広がり云々よりは、あのタイミングで、あれだけのクオリティの映像を実現したことが圧倒的でした。リモート撮影の完成形がいきなり出たというか。以降のリモート撮影は全部これの真似に見えかねない仕事だったと思います。

菅野僕も映像にまず圧倒されました。ただ、このカテゴリーでの出品はTikTokの取り組みがメインになっている印象を受けるので、そこの評価をどうするかもみなさんに聞いてみたい。

大八木CMを含まずに審査した場合、僕はいわゆるダンス投稿の企画に見えてしまいました。もちろん、CMのクオリティはすごく尊敬していて、そこからの延長線上にある企画というのも理解しています。だから、そもそも切り離して評価できるのかどうかを決めたほうが良かったのでは。

上西取り組みがフィルムだけだったとき、「あんなに中高生って歌って踊りたい人たちだったかな?」と違和感を覚えることもあったんです。でも、こうやって派生企画がワークしているのを見ると、「本当にそうだった」という裏付けになって、もうこれはリアルの反映として認めざるを得ないと思わされました。

菅野概要説明のソリューション欄にも、CMとTikTokの両方を課題解決のアイデアとして入っているので、CMと一体になったキャンペーンとして、フィルム込みで評価していいと思いました。

井上みなさんがおっしゃるように実際にできあがったCMのクオリティが圧倒的に素晴らしいですよね。コロナ禍の状況にうまく対応したことが非常にポジティブに働いていると思います。
当初の計画の「同じ場所に学生たちが集まって歌う」ことよりも、リモート撮影で「離れた場所の学生たちが歌う」ことのほうが、このときならではで、心を揺さぶったのだと思います。
このCM映像があったからこそ、TikTokのプロモーションに参加したいと感じる方が増えたのではないでしょうか。

大八木みなさんのお話を聞いて、カテゴリーにふさわしいかどうかではなく、やはり「いいものに票を入れよう」という観点で、これを実現したスタッフのみなさんを評価しました。

菅野誰もが知っている小学館の「図鑑NEO」の表紙デザインを、自分の好きなもので作れる施策でした。

原野審査の前からSNSでまわってきて、けっこうみんなやっていた印象があります。単純に好きなものを図鑑にするだけでなく、「これを図鑑にしたら面白いよね」という大喜利にもなっていました。

菅野ただ、大喜利として使われすぎて、意外に利用したのはターゲットじゃないおじさんばかりだったのでは?という心配もありますが(笑)

東畑でも、そこも含めていいですよね。ターゲット以外の人も巻き込んで遊べる設計が、このブランドにふさわしいアウトプットだなと思いました。

小杉「ナショナルジオグラフィック」と同じように、<表紙>という自分たちの「財産」を活用してうまく施策を作ったところが本質的で好きでした。表層的に捉えられがちですが「エントランス」として佇まいがあると思います。

菅野確かに財産の活用ですね。あと「未来の図鑑は、あなたの『好き』から作ります。」というコピーも、言葉としては普通なのかもしれないですが、施策も含めてみると、すごく本質的なことを言っていると感じました。

細川メッセージがいいですよね。小学館の姿勢の表明として、まさにブランデッド・コミュニケーションになっていました。

東畑これが新聞広告だけの掲載だったら、実感が持てなくてメッセージが伝わりにくかったでしょう。でも、それがプロモーションの一部になることで力を持っている。体験とセットで伝えることで、きちんとメッセージが体に入ってくるところがいいと思いました。

上西図鑑の持つワクワク感とも合っていましたよね。

畑中今後の図鑑のテーマとして参考にするだけでなく、是非いくつか実現してほしいです。

保持ここから本当に図鑑を作ったというような真ん中の施策もやってくれると、単に「話題になって良かったね」で終わらない広がりを持てると思いました。

菅野誰でも知っているお菓子をギフトにするため、パッケージを大きく変えるというデザイン的な方法論からビジネスを広げていった施策でした。

保持カテゴリーを気にせず単純に評価したいと思いました。人にあげたくなるし、自分がほしくなる感じもあるし。Pockyらしさから発想されたデザインで、色味が味に落とし込まれているのも良かったです。雑貨屋さんなど、お菓子売り場がない場所でも販売されるところまで辿り着いていて、いい仕事だと思いました。

菅野確かに買いたくなるし、誰かにあげたくなる提案になっていて、プロモーショナルでもあると思いました。

原野ある意味でコモディティになっている商品で、こういうものを作ったこと自体が非常にプロモーショナルかなと。僕ももらったんですけど、みんなほしがって、あっという間になくなったんですよね。イベントをやったりPOPを作ったりしなくても、店頭に商品が並んでいるだけで「ほしい」と思わせる。そのシンプルさがかっこいいと思いました。

菅野こういうデザインの提案は、いくらアートディレクターが「こうしたらいいのに」と思っても、わりと受け入れられにくかったりするじゃないですか。パッケージのデザインをこれだけ潔いものにするのは難しいと知っているだけに、よりすごさを感じられました。

小杉僕もこのシンプルさがすごく好きなんですが、何でもかんでもシンプルにすればいいということではなく、直線と丸の記号だけで作ることがPockyの魅力を再確認させることにもつながっていて、本質をデザイン価値として、プロモーションできたいい例だと思います。

大八木プロモーションの究極は商品そのものが広告化することだと思うのですが、それを鮮やかに成し遂げていました。

菅野記事から株が買えるサービスで、デジタル・エクスペリエンスのカテゴリーでも大絶賛されました。シンプルなアイデアだけど、明らかに人が動くよねという構造があって、こういうソリューションがちゃんと実現できるのは、率直にうらやましいと思いました。

原野アイデアそのものは思いつきそうな気がするのですが、ちゃんと稼働していて、オリジナル記事も作っている。そうやって地道に具体化したところがいいと思います。株式投資と日々のニュースは本来直結しているものじゃないですか。その本質に根ざしたところも浮ついたアイデアという印象を与えなくて、好感が持てました。

保持個人的に調べたのですが、SMBC日興証券は記事から株を買うことを実現した少額取引のシステムを、以前から持っていたらしいんです。そうやって企業のアセットを正確に把握して提案に活かすことができたのは、よっぽど企画者が企業の中に深く入り込んでいたからこそなんだろうと思います。

菅野売り上げの拡大だけに留まらない大きな取り組みですよね。ビジネスデザインだし、イノベーションでもあります。もはや「いい仕事」としか言いようがないというか。

細川この部門が広告の領域を広げる取り組みを評価するためにあるのだとしたら、まさにぴったりの施策だと思いました。

菅野ツイッターの「下北沢に店舗を作ってくれ」という一人のつぶやきとのやり取りを、実際の新店舗にラッピングした施策でした。

上西私はこれがいちばんかもというくらい好きだったんですよね。店舗を準備する際、インパクトのある仮囲いを作ってくださいみたいな仕事がけっこうある中で、コストをかけずに街から愛されるアイデアを投げかけていて。バーガーキングはいつも面白いことをやっていますけど、ローカライズされたプロモーション/アクティベーションとしてもいいし、アイデアで突破している感じがしました。

大八木お客さんの声を聞きながらやっていることを表現するために、ユーザーの投稿を2階の窓に置いて、そのリプライを入口にすることで店舗をタイムラインに見せている。街頭にユーザーとブランドの会話を出すデザインがすごいと思いました。

菅野概要説明だと、下北沢への出店に際してファンの出店希望ツイートを探し出し、いち早くリプライしたのをラッピングしたとあります。だから、ユーザー投稿の7カ月後に返答した履歴もそのまま残してある。

上西それが「自作自演じゃない」という証明になっていると思いました。

菅野とても誠実な説明であると思いながらも、「たった一人のファンの声を起点に!」とも書いてあるのが少し誤解を生みそうではありました。

大八木ファンの声を起点に出店を決めたのではなく、ファンの声を起点に広告を作ったということですよね。

菅野その解釈でも期待されてオープンするという感じは伝わってきますよね。

原野バーガーキングは大きな会社だけど、1店舗の出店にそんなに告知予算を出せるわけはなくて。でも、そこにユーザーとのやり取りをラッピングするだけで話題になり、みんなが面白がる。バーガーキングのキャラクターも伝わるブランディング施策にもなっています。よくできたプロモーション/アクティベーションだと思いました。

畑中これは日本に数少ないダイレクトとして成功した統合キャンペーンだと思います。こういう仕事が海外だけでなく日本でもやれるんだと勇気づけられました。最初にきっかけとなったツイートをした人をお店のオープン日に招待しているのも良かったです。

上西私はこれ好きでした。長い動画を見てもらうことがどんどん難しくなっている中で、気が付いたら3分間全部見ちゃった。ちょっとしたイライラの瞬間をつないだアニメーションもかわいかったですし、いいなと思いました。

細川私もコンテンツ力がすごいと思いました。面白くてわざわざ何回も見てしまいました。

菅野チキンラーメンで3分のコンテンツを作ろう、それをタイマーに見立てよう、というところまでは思いつくんでしょうけど、イライラをどんどん募らせていって……。

細川ひよこちゃんがブチ切れるまでの3分にしようと。

菅野3分間でストレスを溜めさせて、商品でスッキリさせるという視点は今までなかったと思います。

細川商品を食べるまでの時間を、わざと飢餓感をあおるように見せていく設計も、実は高度にできていますよね。名作「got milk?」の構造を思い出しました。

菅野SNSからスタートして、ひよこちゃんがおかしくなっていく定番のスタイルもたまらないところがありました。

菅野畑中さんのワイルドカードでした。
※(審査委員は事前のサイト審査の時点で、審査委員みんなで議論したい作品にワイルドカードという印を投票可能な仕組みになっています。ショートリスト以上の作品は全て議論の対象になるので、恐らく他の人は評価しないが、自分はすごく良いと思っているとか、放っておくと流れてしまうが是非ちゃんと議論したいと思っている作品に使う場合が多いことになります。)

畑中どうしても応援したいというより、エントリー資料だけでは、この仕事のすごさが伝わっていないかもしれないと思い、みなさんの意見を聞きたかったんです。僕自身、「実はこれすごい仕事なのかも?」みたいな曖昧な評価しかまだできていなくて。
まず、プロモーション/アクティベーションとしてのターゲットがどこだったのか。トヨタ社員のやる気に火を点けることが目的だったのだとすると、実際に社員にどれくらいシェアされたのか知りたいですし、何を持って効果的な施策だったのか判断すればいいのかわからなかったんです。

菅野ご指摘のとおり、概要説明を見ると、壮大な社員教育という側面も大きかったような印象を受けました。

大八木うちの会社にプロジェクトの写真集があって、あれを見るとトヨタのスケール感が伝わって、非常に好きだなと思うんです。

菅野プロモーション/アクティベーションとしてのターゲットと問われると誰に何を売りにいっているのかという訴求は弱いですが、企業の施策として、ものづくりの根源的なところに向き合っているようにも見えますし、それをクオリティ高い写真とともに発信している点においては、ブランディングにはかなり貢献していると見受けられます。議論のポイントは、それによって何を成し遂げているのかという点でしたね。

畑中そこの成果が具体的に見えないのであれば、プロモーション/アクティベーションのカテゴリーでは評価しにくいかもしれないですね。

菅野かといってデジタル・エクスペリエンスではないですし、PRでもない。良いプロジェクトだとは思いつつも、褒めるべきポイントはどこなのか。そこが見つかっていなかったのかも。

細川まさにこれって、どこのカテゴリーで評価すればいいのか難しいんですけど、ブランデッド・コミュニケーションの役には立っていると思うんです。壮大な社員教育であり、それを外に発信したときに「こういうスケールで社員教育をするブランドなんだ」というメッセージにもなっている。長い年月をかけてやっていることだから、その効果も長い年月を経て出てくるんじゃないかなと勝手に想像していました。今すぐ効果が見えにくいからといって、これを評価しないまま終わってしまうのはもったいないかなと思いました。

小杉ブランデッド・コミュニケーションにデザインカテゴリーがあったら、この施策は確実に上位だと思います。ストーリーから解像度の高いアウトプットに説得力があります。プロモーション/アクティベーションというよりインナーブランディングというか、社員に対してブランドの高い視座を見せにいっている素晴らしいお仕事じゃないかと思いました。

菅野みなさん施策の質の高さは認めつつも、プロモーション/アクティベーションとしての評価が分かれましたが、再投票の結果により、事前投票の圏外から上がってブロンズ受賞となりました。

菅野博報堂さんの雑誌『広告』のリニューアルに際して「価値」を特集し、世の中への投げかけとして価格を1円(税込)で売るという取り組みを行いました。

細川このコンセプトをこの値段で売るという体験の設計が印象的で、私もほしいと思いました。記念にとっておきたいというか。雑誌単体というよりは、体験もセットで評価したいです。

菅野これは博報堂さんが自ら作っている商品だからできるわけですが、価格をいじるのは僕らがいちばん手をつけられない領域なので、強いメッセージ性を感じました。

細川価格をメッセージにすることがすごいなって。思いつきそうで思いつかないし、実現できたのもすごいと思います。

菅野どうやって本屋さんに1円の本を置いてもらったんだろうと思いますよね。デジタルの時代にリアルな本を1円で売ることにも、アート作品のような印象を受けました。

原野おっしゃるように、これはもはやアート的な試みだと思いました。広告業界にいる者として、『広告』という名前の雑誌にダサいことはしてほしくない。これはテーマがかっこよかったし、コンテンツの中身も装丁もかっこよかった。続く号もなかなかいいんです。これだけのものを作る熱量を評価するのは大事なことだと思います。

畑中今回のリニューアルで、雑誌『広告』がただの読みのものではなくて、広告の発想力を証明する実験場になっている気がします。これが話題になっていることは、出版している博報堂の人間として誇らしくもあります。

保持本のプロモーションは内容をわかってもらうために、立ち読みや試し読みが常套手段だと思うんです。でも、これは販売価格のような売る形態の工夫を通じて、書かれている中身を疑似体験させるところがめちゃくちゃ新しいプロモーションの仕方だなと思いました。読まなくても「こういう内容なんだろうな」ということが伝わってきましたから。

菅野すごくメッセージ性があり、みなさん非常に考えさせられた施策だったと思います。

菅野近隣店舗の撤退により、秋葉原エリアではマクドナルドに出店数で勝ったと宣言した施策で、下北沢店のキャンペーンとはブランドのキャラクターが、かなり違う印象を受けました。

小布施マクドナルドへの感謝を伝えるポスターに実はタテ読みが仕込まれていることで、SNSで謎解きがめちゃくちゃ広がった。店頭をメディアにしているだけでなく、そこから拡散する仕組みまで設計されており、よく練られたキャンペーンだと思いました。

菅野海外ではこういう挑発的なキャンペーンはよくありますが、日本でも意外とやれるんだというのも発見でした。

東畑バーガーキングらしくて、しかもコスパがいいですよね。「vsマクドナルド」という仕掛けはワールドワイドでやっているのですが、ギリギリチャーミングな内容になっていていいなと素直に思いました。

細川下北沢店のキャンペーンも好きだったんですけど、一見、礼儀正しい感謝の言葉かと思いきや……というところで、海外も含めたバーガーキングのブランドのキャラクターを日本でもしっかり継承していると感じられました。たった1枚のポスターでここまでの広がりを設計できるのもうらやましかったです。

菅野総じて今回応募されたバーガーキングのプロモーション/アクティベーションはコスパがいいですよね。「たったのこれだけの予算では何もできないよ」と文句を言いそうになる自分を戒めてくれるアイデアだと思います。

原野対応のスピードも素晴らしいですよね。マクドナルドの閉店ポスターの内容が事前にわかっていたわけがないから、それこそ24時間以内のスピード感でやったんでしょう。

小杉会議室のアイデア出しで出てくるようなものではなく、「リアル」から発想したところに強度とオリジナリティを生み、共感につながったのかなと思いました。

菅野屋外広告なんですけど、SNSのスピード感と現場感で判断しているところがすごいですね。

保持最後に1個だけ。大きな枠組みとしてはいいと思うのですが、タテ読みの「私たちの勝チ」というメッセージが引っ掛かっていて。マクドナルドの人ですら「やられた」と思える言葉がもっとあったんじゃないか。これだと不遜な勝利宣言にしか聞こえなくて、左脳ではいい施策だと理解しているのですが、右脳まで届かなかったなと個人的には感じてしまいました。

菅野デジタル・エクスペリエンスのカテゴリーでも高く評価された施策です。米津玄師さんのYouTubeチャンネルの動画に仕込まれた謎を、ファンが議論しながら考察していく過程が、プロモーション/アクティベーションとしても評価できるか検討できればと思います。

細川「アクティベーション」部門として人が実際に動いた点を評価しました。施策に遊び心もあって、何よりファンが楽しんでいたのが良かったです。

大八木僕は施策をSNSで話題にしようとするとき、制作者が上品さを忘れる気がしていて。自分ではクリエイティビティに対してのコードを意識しながらものを作るようにしているんです。特にアーティストとの絆が強いファンに向けた施策は、彼らの思いを裏切ってしまったら恐ろしいものになります。そういった観点から言えば、これはファンのことをよく観察し理解してうまくやったという印象です。
あと、僕はコピーライター出身なので、いちばん素晴らしいと思ったのは、施策の内容がアルバムのタイトルにちゃんと関連しているところですね。そこで謎解きが広告としてきれいに落ちているので、気持ちよく推すことができました。

細川そうですよね。アイデアがアルバムのタイトルに落ちているからこそ、ブランディングとしても成立しているし、隅々までクオリティが高いなと思いました。

菅野グローバル展開されるブランド「KANEBO」のリ・ブランディング企画です。リザルトとしてはSNSで話題になったほか、口紅の売り上げも向上したとのことでした。

小布施骨太なブランディングキャンペーンとして素晴らしいと個人的に思っているのですが、ブランデッド・コミュニケーションのプロモーション/アクティベーションとして、こういうのをどう評価すればいいのかと悩んでいます。みなさんの判断基準を聞きたいと思いました。

菅野その基準は、どういう課題がクライアントから与えられ、それをどういう技で解決したかという設定によるとは思っています。売上増を求められているのにズレたアイデアを出したらダメなんですが、プロモーション/アクティベーションだからといってそこだけにこだわることはなく、クライアントの課題をどう解決したかという関係が大事だと考えています。その意味でKANEBO「I HOPE.」は、クライアントのブリーフ自体が哲学的なお題ではあり、総合的なブランド力を上げるためのリ・ブランディングということが評価の難しい点です。

小布施それならパーパスみたいなことを規定しながら、表現にちゃんと落とし込んでいるという意味で、これは評価に値すると思いました。

菅野あらゆるキャンペーンがそうなんですけど、ブランディングにいかに貢献するかっていう成分と、売り上げに貢献する成分のどっちかだけというものはなくて、両方の成分がどれだけの割合で入ってくるかということですよね。そこのバランスがクライアントの提示したミッションにどれだけ応えているかということを、その都度検討するしかないのだと思いました。

大八木会社そのもののボイスを作り変える作業って、クリエイティブ・ディレクターがクライアントと一緒にやっていくもので、その寄り添い方が、この企画ではダイレクトに反映されている。非常に羨ましいし、私はこの仕事を通じて勇気をもらいました。クライアントと表現者が一体になって突き抜けたボイスを出すという行為に、尊い志を感じます。

菅野企業の哲学という曖昧になりかねない部分を、しっかりと表現の技術で感じさせていますよね。ブランドの姿勢を世の中に表明するにあたり、表現者が経営者の近くにいることが重要なんだと実感できる仕事で、僕も勇気づけられました。
審査の過程で、SNSの一部で起こった炎上についての指摘もありあしたが、今回のメッセージ「化粧をしないと生きられないのか」と同調圧力みたいに感じてしまった反応も一部あったってことでしょうね。でも、安易に取り下げなかったことは、かなり強い意志を持ってメッセージを出したことの証明になったのではないでしょうか。
そういう姿勢は今後ますます求められると思います。話題になるということは、必ず賛否両論をともなうので。カネボウさんは批判があってもこの方向で行くんだという意志を表現者と経営者で共有できていたから、それができたんだなと感じさせられます。

原野僕も企画としてはいいと感じます。ただ、これはACC全体に関することで、コピーがいいとか、アートディレクションがいいとか、CMとデザイン以外で表現を純粋に評価するカテゴリーがないんですよね。どのアワードでもカテゴリーに合う合わないという議論はあるんですが、大きく「いいものはいい」と寛容に評価することもアリなのではないか。
特にこれは何かをひっくり返すようなアイデアではなく、あくまでオーセンティックないい仕事。そういうのを素直に評価する部門があると、ぴたっとハマったんじゃないでしょうか。

菅野とにかく表現としてのクラフト力があります。クリエイティブの分野にいる人間としては、その技術を評価すべきだなとは思いました。

上西広告賞としてアイデアの新しさは大切な一方、企業が意志を持って変えるブランディングの仕事も重要だし、こういうものがちゃんと評価されてほしいとは思いました。販売に直接つながるわけじゃない施策にお金を出すことが、日本企業はあまり得意ではない印象がある中で、長期的に続いていく仕事をやっていってほしいし、それが応援できるのは、やっぱりこのカテゴリーだけではないでしょうか。

小杉オーセンティックなブランディングを賞として評価するとき、だからこそ圧倒的な「何か」を見出せないと説得力を持てないと思うんですよね。圧倒的なコピー、圧倒的なビジュアライズなど。その意味でトヨタの「5大陸走破」は圧倒的なビジュアライズでブランディングに寄与していました。そういう圧倒的な「何か」があるから、ブランデッド・コミュニケーション部門では評価しましたという説明ができるといいのではないかと思いました。

原野これはカネボウという会社全体ではなく、「KANEBO」という高級ラインのブランディングなんですよね。普通、高級ブランドはファッション性のみを訴求しがちだけど、現代における女性の課題に取り組んだことが評価ポイントだったと思います。

菅野ありがとうございます。みなさんのおかげで来年以降のカテゴリーのあり方も含めた、かなり濃い議論ができたと思います。

菅野コロナ禍におけるドラえもんからのメッセージということで、とても話題になった施策でした。ただ、このカテゴリーでの初期投票では点数の分散がものすごく大きかった(評価がわかれた)企画でもあります。

畑中僕は高い点数をつけたほうなんですが、アニメというコンテンツの本当に正しい使い方だなと思ったんです。配達員さんに感謝を伝えるようなことも、そこにドラえもんがいるだけでやりたくなるというか。キャラクターの根っこにある優しさも含めて表現できている企画だと思いました。

東畑賛否があるのはすごくよくわかります。企業がステイホームを促す取り組みは、海外企業も含めるとお腹いっぱいになるくらいあった中で、ドラえもんならギリギリ受け入れられる気がしました。子どもたちがうれしいだろうなと思える。普通の企業が同じことを言っても気が滅入ってしまうところを、ドラえもんだから超えられたのかなと思いました。

菅野僕は素直に感動しました。プロモーション/アクティベーションとして評価する際、誰のための何を目的とした施策なのかという議論はあると思います。ただ、藤子・F・不二雄プロと藤子・F・不二雄ミュージアムがクライアントで、ドラえもんという存在の役割を定義し、更に好きになってもらうと捉えることでそこは納得できたのではないでしょうか。

原野僕は最初すごく高い点数をつけたんですけど、他のエントリー作品もいろいろ見ていった中で気持ちが翻ってしまいました。すごいのは藤子先生であって、ここにクリエイティブが貢献した割合は何%あるのかと。それがわからなくなって評価を迷ってしまった。

上西個人的にはコロナ禍で「大丈夫」と気軽に言ってしまうのは抵抗があるタイプで、それがドラえもんだったら許されるのかどうかわからなかったんです。でも、みんなが配布したり貼ったりできるようにデザインして、実際に自宅で使った人がこれだけいるのを見ると、アクティベーションが成立しているとは思いました。施策の好き嫌いは置いておいて、たくさんの人が喜んでいることは評価したいと思い、真ん中くらいの点数にしました。

菅野ドラえもんをタレントと考えれば見事な起用と評価できるという声や、コロナ禍の不安な状況に別のアイデアがあったかもしれないのではという意見もありました。それぞれの正しい意見や評価が多様にありました。審査は全員が同じ意見になることではなく、みんなで議論することに意義があると考えていますので、最終的には投票の民主主義に任せました。

菅野ノー残業デーを定着させるため、家族の声を録音した社内放送を定時退社の時刻に流した施策。このアナウンスを活用したラジオCMもオンエアすることで、全国の企業への啓発も行いました。総合して高い得点を記録していますが、実は上位の中では際立って審査委員の点数が分散したプロジェクトでもありました。

井上全作品の中で、かなり高く評価しました。
あらゆる会社で実施されていると思うのですが、通常の定時退社のアナウンスを流すだけでは、1カ月もしないうちに効果をなくしている気がします。
これなら家族からのアナウンスがあった本人はもちろん、知り合いの家族が呼びかけているのを聞いた周囲の人をも、早く帰ろう!となりますよね。きちんと心ある言葉に変わっているから効果が生まれているのだと思います。

畑中「あれは部長の娘さん?」みたいなことで本人だけでなく周囲でも話題になると思うんですよね。そこから会話が生まれて、社員に残業を意識させるという企画が良かったです。

原野これはどうやってパナソニックが提供しているとわかる仕組みになっていたんですかね。ラジオCMでは提供を流しただろうけど、それならラジオCMとしてのプロモーションということになるじゃないですか。そこらへんが概要説明からはわかりにくかったと思います。

保持僕は脊髄反射的に高い点数をつけたんですけど、あらためて考えたときに、これを本気で広めようとしているかどうかには疑問が残りました。テーマは素晴らしいし、自動音声の代わりに家族の声を流すのもいいアイデアだと思いました。でも、これをパナソニックほどの会社が本気でやろうとしているなら、もうちょっとスケールさせるためのアクションがあってもいいのにと思いました。

細川「今後日本中に展開していく」とありましたから、これから広めていくということなんでしょうね。でも、ローコストかつアイデアの力で、日常に今までと違う気付きが与えられるのはいいなと。「その手があったか」と思えたところを評価しました。

菅野アイデアの見つけ方は素晴らしいけど、一時的な施策ではなく実際に世の中にどうワークさせたのか気になったということですね。

細川プロジェクトの途中で応募しちゃった、という印象でした。

畑中この企画単体だけでなく、オリジナルの社内放送を管理するシステムも合わせて作ってたりしたら、もっと高く評価できたと思います。そうすれば、他社の音響システムでなく、パナソニックならではのプロモーションになりますよね。

菅野確かに仕組み化するともっと商品に落とし込まれていいですね。もう少し具体的なサービスがイメージ出来たら更に良かったかもしれないですね。

菅野これはここ数年毎年のようにエントリーされている企画です。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、JR東日本と東京メトロがコラボレーションしながら、競技の魅力を路線利用者に伝えてきました。毎回評価が高いですが、ずっと続けてきていることも含め、今年の応募について、あらためて評価を議論したいと思います。

上西私は高得点を入れました。丁寧に作り込まれていて好きです。電車を通じたコミュニケーションとしてちょうどいい分量で、マイナー競技も知ることができる。デザイン的にも競技と開催場所の魅力をちゃんと調べて伝えようとしていて、こういう仕事でブランディングをしていくのはいいと思います。ブランデッド・コミュニケーションのプロモーション/アクティベーションとしての評価にふさわしいです。

小杉上西さんの評価と同様です。僕も鉄道会社の仕事をさせてもらったことがあるのですが、鉄道会社はメディアをたくさんもっているので、発信力は多大にあるんですよ。でも、それを的確に整理して、コンテンツを競技で分け、しかも車内の読み物として成立させている。そこに鉄道会社ならではの企画の妙を感じました。

菅野アートディレクターやデザイナーからの支持が厚い企画でしたね。

小布施これは応援演説をしたい企画でした。アイスは棚の中でどう存在感を出すのかで売り上げが変わるんですが、パッケージの背表紙を漫画本のデザイン(『進撃の巨人』全10巻とコラボレーション)にすることによって、目立つだけでなく、大人買いまで促進させています。売り場での販売促進のあり方として、とてもよくできたアイデアだと思いました。

菅野お店の人も10巻そろえて陳列したくなりますよね。

小布施単なるコラボレーションものを超えた企画になっていました。

菅野プロモーション/アクティベーションというお題に対して販売増に直結させるという意味で、かなり効果を出していたと思います。パッケージのアイデアは僕らが提案しにくいところでもあるのですが、そこを実現したのも本当に素晴らしいですね。

大八木僕もお話を聞いてすごく応援したくなりました。既成のルールを破壊しているんですよね。そこにアイデアがある。売り場で見かけたら絶対に目を引いたと思います。

畑中僕は別のブランドでアイスのプロモーションをやっているのですが、アイスは店内に広告を貼る場所が全然ないんです。ビジュアルを作ってもコンビニとかの中ではほとんど掲出できない。結局、メディアとして利用できるのはパッケージしかない。だからこういうメディアの作り方もあるのかと思ったし、アイスケースの中のイノベーションだなと。1個だけじゃなく、まとめて買いしたくなるのもいいですよね。

菅野本の背表紙と数字のデザインは、コンプリート欲求を刺激するんだという発見がありました。みなさんのお話を聞くほど、すごい販促アイデアじゃないかという思いが強くなっていった企画です。

保持ゲームコミュニティが世界的に大きなものになっている中で、そこにうまく入っていくコミュニケーションが海外の審査では多いんですよ。そのうえで、「自分の体力ゲージがPockyのチョコとビスケットと同じ比率になると倒せる」というハックの仕方は、思わずゲーマーがやってみたくなる要素になっていました。
それに「手を汚さずに食べられる」というPockyの特徴は、ゲーマーにとって意外とバリューにもなっている。ターゲットの目の付け所がいいし、企画としてのまとまりも良かったので、みなさんのご意見をうかがってみたいです。

畑中僕は審査全体の中で、個人的にすごく嫉妬した仕事でした。スケールはインディーズさがありますけど、アイデアはめちゃくちゃ面白い。ゲーマーって制限があると燃える人たちなんです。ライフゲージがPockyの比率になると、このKOが出せるという設定の仕方もうまくいっていると思いました。

菅野本来は体力を温存したほうが有利なんだけど、絶妙なバランスになったら倒せるという設定がターゲットにも魅力的だったということですね。

上西ゲームのプレイ自体は大会でしかできないんですよね? そのプレイ動画を世界中の人が見たということが、プロモーション/アクティベーションになっている理解でよかったんでしょうか。

保持どの格闘ゲームでも、体力をちょっと残して勝つのを「Pocky K.O.」と呼ぼうぜっていうムーブメントを作ったということですね。相手を倒して「Pocky K.O.」と実際に出るゲームは、エキシビションマッチのために作ったものです。

菅野その大会からSNSやメディアで「Pocky K.O.」という呼び方が広まったと。世界中の人が知っている比率を利用した面白い施策だったと高く評価されました。

原野僕はラベルレスのボトルデザインが特に素晴らしいと思いました。こんなことできるんだと。それを篠山紀信さんに撮影してもらうセンスも鮮やかでした。ただ、あとから検索して気が付いたのですが、これは限定品のようなものだったんですね。だから、どのくらいサントリーとして本気の取り組みだったのか気になりました。
あと、概要説明のビデオに、ラベルレスのデザインは緑茶本来の緑を見せるためだったとあり、体験の新しさから発想したのではなかったんだと思って、評価を迷いはじめてしまった。

菅野僕もラベルレスのデザインを店頭で見たときに、潔くていいと思いました。捨てるときにペットボトルのラベルを剥がすのがめんどくさいなと思っていた中で、「もうこれでいいじゃん」と感じられたんです。でも、緑を見せるために「剥がしたくなるデザイン」にしたと言われると、「そうだったんだ」と思ってしまって。

大八木まさに僕の家でも同じ課題があって。普段買っているお水と炭酸水はラベルレスのものにしているんですね。サステナビリティを考えたブランドの決意表明として、このラベルレスデザインが生まれたのであれば、個人的には積極的に評価できたように思います。これをどう思うかみなさんの意見を聞いてみたいです。

菅野あらためて概要ビデオを見ると、どうもサステナビリティという文脈じゃなかったみたいですね。

井上私も店頭で初めて見たときに、勘違いしてしまいました。ゴミを減らすためにラベルレスにして、そうすると中身の色が目立つから他社と全く異なる緑色にした、ということなのかと思ったんです。つまり、ブランドの狙いと、全く逆に捉えていたことになります。茶色ばかりのペットボトル緑茶市場の中で、緑茶本来の緑色にすることで選ばれる理由を作ったという部分を評価するということですよね。

菅野(概要ビデオを見直して)篠山紀信さんが撮影したのも、裸をたくさん撮っていたからだったんですね。「妻(宮沢りえ)もお世話になった篠山紀信さんが撮影した裸の『伊右衛門』」ということか。なるほど、すごすぎる。

畑中僕も最初は「いろはす」以来のペットボトル飲料のエポックだと思いました。でも、そうじゃないとわかっても、設計がすごく素晴らしいキャンペーンだと思います。緑茶は緑が本来の色だということを伝えるためにラベルレスにする。マーケティングの流れとしてきれいでした。

菅野やはり個人的には、「ラベルがなくても『伊右衛門』とわかるでしょう? だって緑なんだから」くらいの割り切り方でもかっこよかったですが、そういった議論抜きでも高く評価できるキャンペーンだったと思います。

菅野これはパンテーンが一貫したコンセプトでやってきたプロモーションのひとつで、今年は就活における髪型の解放をテーマに展開されました。

東畑去年の「#この髪どうしてダメですか」もパンテーンでしたよね。髪の毛にまつわる議論を投げかけられる適正な対象をちゃんと見つけて、継続して取り上げていくことに対し、「またか」とは思わずに、ブランドとして頑張ってほしいと思いながら見ていました。世の中に気付きを提示するというアクションは大切なことだと思うので、応援の意味も込めて評価しました。

菅野もちろん課題意識だけでなく、アウトプットの仕方としてどうかというのも評価基準ではあると思いますが、139社も賛同企業を集めたことには、世の中を変えていこうという本気の姿勢が見えました。

小布施これからの広告にあってほしい役割を担ってくれているという意味で、僕もすごくいいんじゃないか思います。

菅野都会の人に自然環境保護に対する関心を持ってもらうため、渋谷の川に干ばつから逃れてやってきたという設定の、本物そっくりのカバの親子を設置した施策でした。

小布施僕はけっこう好きです。見慣れた川にこれがいたらびっくりするだろうと思います。体験のデザインの仕方としてぎょっとするし、誰かに教えたくなる。実際、かなり話題になっていました。黄色い枠の撮影スポットも用意することで、「ナショナルジオグラフィック」という雑誌のブランディングにもなっています。

井上日常の中にリアルなカバがいることで、驚いて写真を撮りたくなる体験の設計がスムーズですよね。ナショナルジオグラフィックが行っているということもきちんとわかるし、ブランドに落ちていると思います。「動物たちが生き続けるために環境の変化に順応しなければならない」というところまで伝わっているとすごくいいなと思いました。

東畑すごくシンプルで、やりたいことの理解が早いですよね。何も説明を読まなくても写真だけで狙いがわかる。どういう気持ちにさせたいか、どう広げていきたいかの設計が一瞬で伝わります。ともすればアイデアが複雑になりがちな昨今、このシンプルさには好感が持てました。

原野やけくそな感じというか、ここまで振り切れる大胆さは評価したいと思いました。

菅野SNSのインサイトとして、ネガティブなコメントほど爆発するというのがあります。それを利用して話題化したというか。ベイクにまつわる会話を増やすために、「買わない理由」を投稿してもらう。プロモーション/アクティベーションとしてもうまくやったと思います。

原野ここまで開き直られると、意外とファンが頑張って擁護することも起こりますね。

菅野クライアントに勇気があるなとも思います。ひたすらネガティブな意見だけをぶつけられる未来も想像できたでしょうから。

畑中「買わない理由」を何万件も集めることで、ユーザーのリアルな生声を次に活かすというデータ収集にもなっているところが面白いなと思いました。

菅野「それを踏まえたリニューアルを実現しました!」とやってくれたら楽しいですね。

井上こういうプロモーション/アクティベーションが増えた印象があります。「助けてください!アイデアください!」と正直に言ってしまう。「雪見だいくふう」もそんな試みだったと感じました。みんなの手を借りることが、発話を増やし、ファンを増やすことにつながっているのだと思います。

菅野こちらは原野さんがワイルドカード(※ワイルドカードについては、5大陸走破プロジェクトに説明あり)を出した作品です。デジタル・エクスペリエンスのカテゴリーでも高く評価されましたが、プロモーション/アクティベーションとしても評価できるのかという点を議論しました。

原野とても高く評価したいわけではないのですが、入賞作品として残しておきたいと思ったんです。「ユニフォームに企業ロゴが入っていたら、本当のプロチームのユニフォームみたいでうれしい」という声を聞いたときに、これだけ広告が嫌われ者になってしまった時代に、そんな生き延び方があるんだという発見がありました。

菅野デジタル・エクスペリエンスのカテゴリーでも、構造そのものは広告的な発明だよねという評価がありました。ただ、プロモーション/アクティベーションの初期投票ではかなり点数が低かった。

原野僕としては「雪見だいくふう」のコラボレーションが高く評価されているので、こういう「地域の人々×ブランド」みたいなやり方もありじゃないかなと思いました。

保持僕はデジタル・エクスペリエンスでは高く評価したのに、こちらでは低くつけていました。でも、原野さんのお話を聞いて、むしろこっちのカテゴリーのほうが素直に評価できるのではないかと思い直しました。ユニフォームのカスタマイズサービスは無数にあると思うんですが、世の中のいろんな商品を扱っているイオングループならではの付加価値の作り方として、いい施策だなと思います。

菅野イオンさんの販促施策としてだけじゃなく、ロゴを提供した企業にとってもプロモーションになる。購入する人は割引になる。誰にも損がない企画ですよね。

小布施これは僕の所属するセンターでも、若手が「これはすごい」と絶賛して共有された事例のひとつです。プロモーション/アクティベーションというカテゴリーを超えて、ひとつの新しいビジネスを作った画期的な企画だと思います。ただ、ブランデッド・コミュニケーションとして、イオンというクライアントのブランディングになっているかという意味では評価が悩ましいところでした。その一方、これが僕らの目指すべき新しいかたちなのかもしれないとも思います。

原野僕はこの施策が「OUTFITTER」という商品やイオンのブランディングになっているかはあまり気にしていなくて。この業界って、新しいビジネスモデルを作ると公言する人がけっこういるじゃないですか。でも、ちゃんと着地して、しかも本当に新しいものは滅多にないのに、これは実現できている。ブランデッド・コミュニケーションという軸だけで評価すると外れるかもしれないけど、広告会社が新しいことを仕掛けたという意味で評価されてもいいと思っています。

大八木僕もプロモーション/アクティベーションという枠組みに囚われて高く評価しなかったのですが、「人間をメディア化する」という視点がコアアイデアとしたときに、企業が人間そのものをスポンサードしてユニフォームの料金が割引になるのは、ビジネススキームとしての新しさがすごく光っていると思います。原野さんがおっしゃるように、チャレンジングなアイデアであることを評価してもいいのではと思いました。

菅野再投票の結果、プロモーション/アクティベーションでも入賞となりました。

菅野水泳選手の池江璃花子さんとパートナーを組んだ施策で、初めて人前でウィッグを外した彼女の姿を通してブランドのメッセージを伝えています。こちらは事前の審査委員の評価はほぼ一緒でした。

東畑これは絶対に話題になるし、彼女に勇気づけられる人がいることもわかったうえで、この施策が池江さんにとってもポジティブな結果になればいいなという願いを込めて見ていました。実際、ものすごいメディアインプレッションがあったわけですけど、池江さんご本人への影響がどう出るか考えてハラハラしたというか。そこをみなさんがどう感じたのか知りたいです。

菅野このキャンペーン自体にはネガティブな感想は一切ないのですが、アイデアとして池江さんの人生に企画の体重を全部預けていることはどうなのかとは、僕もやっぱり少し思いました。

東畑もちろん、制作スタッフとの間で対話がちゃんとあって、ご本人の意志も尊重したうえでローンチされているとはアウトプットからも感じます。

井上池江さんの生きる姿を、SK-IIが応援するのはいいことだと思います。 SK-Ⅱが、同じような境遇の方々を支援したり、今後も継続して支援する予定があるのかどうか、気になりました。そこが見えれば、池江さんだけに頼りきっているとは感じなくなるのですが…難しいですね。

菅野語りにくいテーマですよね。審査の点数がめちゃくちゃ高いわけでもなく、かといって低くもないところに、みなさんの葛藤が表れていると思いました。

小布施メディアインプレッションの評価としても、ちょっと引っかかるところはあります。これは必ずSK-IIとセットで露出したわけではなくて、ほとんどが池江さんの話題として出ているんですよね。だから、純粋なSK-IIのメディアインプレッションとして評価していいのかとは思います。

菅野これはSK-IIに勇気を感じるというより、池江さんの姿勢に勇気を感じるからメディアの取り上げ方もそうなったんですよね。

原野アイデアではなく、キャスティング中心の企画は基本的にあまり高く評価しないのですが、これはうまいと思いました。P&Gはオリンピックパートナーで、東京2020大会に向けて誰をキャスティングしようとなったときに、いかにも活躍しそうな女性アスリートではなく、出場できるかどうかわからない人を抜擢したわけです。 その選択がP&Gの掲げている“Change Destiny”という哲学にハマっているし、ご本人の人生ともシンクロしています。ひとつのグラフィックの完成度としていいなと素直に思いました。ただ、メディアインプレッションの数字をそのまま受け取っていいのかという指摘は確かにそうなので、ブロンズくらいだったら全然いいんじゃないかという評価です。

Cカテゴリー(PR)

素晴らしい仕事だと思いました。新しい団地の住み方やライフスタイルのアイデアは考えられても、それを衰退するコミュニティに外からやって来た人が定着させるのはかなり難しいじゃないですか。DIYのできる団地があったらいいなと思うことと、それを実装することには距離があるけど、これはちゃんとやり遂げた。PRパーソンが4年半もコミュニティに入り込んで実現したことも褒めたかった。合意形成をはかるというPRの仕事としてよくできていた。

細川私も高く評価しました。団地を再生する社会課題に取り組むため、住民を主役にして実現したのが素晴らしいと思いつつ、でも、それこそ難しいことじゃないですか。事業者の人が団地に住んで、ここまでのリレーションを築いたエピソードを聞き、名作フォルクスワーゲンの広告の数々が工場に通い詰めて生まれたという話を思い出しました。

菅野こういう部門やカテゴリーでないと褒められにくいプロジェクトだと思うので、ここで評価する意義はすごくあると思いました。

尾上住民主体といったら聞こえはいいけど、普通はだいたい全員参加にならないですよね。でも、これがワークしたのはDIYを最初に浸透させたことが大きいんじゃないかと思います。小さな「やってみたら楽しかった」を積み上げていくことで、徐々に団地再生のプロセスにみんなを巻き込んでいくやり方が、押し付けがましくなくて受け入れられたのではないかなと。4年半も住み込みでやるヘビーさはありますが、確実に団地がどんどん空き家になっていく未来が見えている中で、希望が持てる取り組みだと思いました。

橋田団地の衰退というテーマにはいろんな社会課題が入っているんだと気付かされました。だとすると、団地を再生させることは、実は高齢化や孤食など社会課題を解決するヒントを示すことにもつながっている。このプロジェクトが示している結果以上に、社会に対して大きなことを成し遂げているのではないかと感じました。

三浦プロモーションかPRかという議論がよく出る中で、僕はPRが持つべき視点として、長い時間をかけた取り組みを評価するということがあると思うんですよね。何年もかけて住み込んで合意の範囲を広げていくという視点は、プロモーション/アクティベーションにはないものです。その意味でもこれはPRらしい、とてもいい仕事だと思いました。

菅野タイトルや概要説明がほぼすべてでしたね。シンプルで強いアイデアでした。未来を生きる世代の意見を経営に入れていくために、Chief Future Officer(CFO)として18歳以下の役員を募集し実際に起用したという。

東畑このカテゴリーの最高点を入れました。未来に向けたSDGsの取り組みはあらゆる企業がやっていかないといけない中で、まず態度表明のやり方としてチャーミングです。しかも話題づくりだけで終わらせず、企業の目標設定に反映させたり、環境大臣に会いに行ったりと行動に移した。毎年これを続けていくと宣言されていることも含め、いろんな人をインスパイアする施策だったと思います。

嶋野18歳以下を募集する際に、あえて新聞広告だけで展開したところも僕は評価しています。新聞が媒体として伸び悩んでいる中で、このテーマなら新聞に広告を出したほうが若い世代にも届くと確信を持ってやっている。実際に応募も集まったことで、施策の戦略性が証明されていました。

原野同じメッセージでも誰が言うかということが重要です。これを従来の大企業が言い出したら、どれだけ本気なのかちょっと信じられない気がしますよね。でも、ユーグレナは日本のユニコーン企業として注目されていて、世の中から未来を託されている存在になっている。そういうポジションにいる企業が、さらに未来を見据えた施策を打ち出している。だからこそ効果が出るんだ、という計算は絶対にあると思うし、ブランドのキャラクターまで踏まえたうえで、思い切り弓を引いた施策として評価できました。

橋田「役員に○○さんが就任」みたいなアイデアはこれまでもあったんですが、そのすべてが借り物だったと思わせてくれるほど、ガチな施策でした。経営の中身にちゃんと入って、しっかりと未来を考えるところまでやりきったところも、今後のPRキャンペーンにひとつの基準を作ったと思います。名前だけではなく、「本当にワークしている役員」という実のあるアイデアは、ここまで強いインパクトを生むんだなと考えさせてくれた企画でした。

三浦「PRは他分野以上に、主体となる企業が本気で取り組むことが、いちばん効果を生む」ということの証明になっていて、この施策がPRカテゴリーのど真ん中に来るのがいいのではと思います。それから嶋野さんがおっしゃった新聞広告での募集に関しても、子どもたちやその親に広めるだけでなく、株主などさまざまなステークホルダーと合意形成するうえで、いちばんコスパがいいという判断があったのだろうと思いました。

嶋野もちろん戦略の緻密さもさることながら、やはり将来のことを考えるときは未来を担う若い世代が本来いるべきで、僕らはそれにちゃんと取り組んでこなかったんだなと気付かされたという意味でも、すごくいい施策だと思います。

三浦タイミングが良かった、文脈が良かった、キャラクターも最強だった。だけど、それ以上ではないなっていうのが僕の印象です。もちろん、クリエイティブとして超すごくて、こういう仕事ができたらいいなとは思います。ただ、ここにPRにおける複数主体との合意形成のスキルが縦横無尽に活用されているかと言われると疑問があるので、PRカテゴリーのど真ん中として評価は難しいという感じがありました。

嶋野実際のタイミングとしてゴールデンウィークだけじゃなく母の日も入れてきたのは余計かなと最初は思ったんですけど、今は結果としてあれがあって良かったと思います。僕だったら子どもの日でキャンペーンを終えてしまうところを、母の日でもやったことで、子どもだけでなく、それを間近で見守ってきた両親へのメッセージにもキャンペーン全体がなっていたという文脈を加えることにつながったので、あれを狙ってやっていたとしたらPRのスキルとして評価してもいいと思いました。

原野プロモーション/アクティベーションの審査でも言ったのですが、広告賞の評価では僕らクリエイティブの仕事で何ができたのかを純粋に見たいんですよね。そう考えたとき、この施策の完成度の90%くらいは藤子・F・不二雄先生の功績で、クリエイティブはキャスティングして展開の仕方を考えるだけでも、まあこのくらいの結果は出るよねというくらい、失敗しようがないものだったと思いました。
前回は「それを実現したことが立派なんです」と言われて納得はしたのですが、やっぱり藤子先生に点数をあげるのか、それともクリエイティブに点数をあげるのかという視点は、他のエントリー作品と比較するうえでも、絶対に考えるべきポイントだと思いました。

佐々木確かに「表現は誰が作ったの?」と言われたら、狭義の意味でのクリエイティビティは藤子先生だったかもしれませんが、適切なタイミングに適切な人を連れてきたというプロデュース的な視点で評価してもいいんじゃないかという気はしています。

三浦時代の大きな流れとして、「美しいということは他人に評価されるものではなく、自分で決めることである」という大きなパーセプション・チェンジがある中で、どうしても日本だとふわっとした表現になりがちだったのですが、自身の人生を通じて、そのメッセージを体現されている国民的なシンボルを起用し、それがブランドにちゃんと紐付いたかたちになっており、生活者のブランドを選ぶ基準になる可能性にまで高めているという意味で、極めて完成された、マーケティングの目的を持ったPRキャンペーンだなと感服しました。

嶋野実は僕は2点なんですね。まったく良さがわからなかった。まず、このブランドが美しさをどう定義しているか見えなかった。前にユニリーバで似たような施策がありましたが、そのときは「自分らしく生きよう」というメッセージが腑に落ちたんです。でも、今回のSK-IIでは病み上がりの池江璃花子さんを出すということが、このブランドが定義する美しさといかにつながっているのかわからず、ただただ感動させるために起用しているように見えてしまいました。
いやいや、SK-IIは白血病の人たちの支援活動をしているからなのだろうと思って調べてみても、そういうアクティビティも見つけられなかった。そうなるとたまたまスポンサー契約をしていた方が難病を患ってしまったので、それを広告で応援していますというだけでしかないように見えてしまう。未だにどう受け取るべきかわからないままなんです。

三浦嶋野さんがおっしゃったことの中で、ブランドとして白血病の方に対して活動をしていないという指摘は、僕が見ていたよりも広い視野でPRとしての足りない部分を発見されていると感じました。とはいえ、多くの人の美しいっていうことに対する認識を、「社会の中で自分らしくあること」に変えたというのは評価できると変わらずに思います。

原野僕はそんなに悪くないと思っていて。「タレント広告じゃん」と言われたらそうなんですが、SK-IIは東京2020オリンピックの公式ブランドなんですよね。大会に出場する可能性のある選手を開催に合わせて起用しようと考える中で、あえて可能性が低そうな選手を起用したと。
(キャスティング時点では)夢が挫折したけど、それを乗り越えて復活しようとする物語を丸ごと引き受けたうえで彼女を起用したことには、ブランドとしての思想があると感じます。実際、SK-IIの哲学は“Change Destiny”です。きれいになろうとか美白をしようということじゃなく、自分の運命を自分で変えるためのものとしてコスメティックスを展開してきた。そういう流れに乗せるキャスティングとしては意味のあるものになっていると思います。それがPRなのかという定義論になってしまうとわからないのだけど、審査までの1年間で印象に残った広告は何かと聞かれたら、これを外すわけにはいかないだろうとは感じました。

東畑プロモーション/アクティベーションでも議論になりましたよね。嶋野が言っていることもわかるし、一方で広告としてよくできているとも思います。ただ、ブランドの勇気ではなく、池江さんの勇気が表現されているのではないかと感じてしまうところが、僕がいまいち全力で推しきれなかった原因になったかと。

橋田僕は素晴らしいキャンペーンだと思いました。みなさんがおっしゃる気になるポイントでいえば、SK-IIは池江さんと本当のパートナーになれていると感じました。この話を持っていくときに、かなりセンシティブなところをしっかりと説明したうえで出演していただいているのだと思うし、出演された際の表情を見れば、池江さん自身も“Change Destiny”というブランドの目指す方向に納得されているのではないかと思いました。
次に、PRはファクトが重要な中で、タレントの使い方でファクトを担保していることが素晴らしいと思います。どうしてもタレント広告では、いかにイメージを作り上げるかということになりがちなんですが、池江さんの人生と活動自体が、ブランドメッセージの合意形成に貢献していると思います。

三浦優秀なクリエイティブ・ディレクターは昔からやっていたとは思うのですが、ブランドのストーリーとキャストの人生の真実が重なるという視点が、広告やPRのプロジェクトにひとつの基準を与えるという意味で、象徴的なプロジェクトだと思いました。

嶋野池江さんはなりたくて病気になったわけじゃないから、せめて“Change Destiny”というコピーがキャッチになっていれば納得できたような気もするんですが、なりたくてなったわけじゃない人のキャッチを”THIS IS ME”としているのが、本人がおっしゃった言葉なのかもしれませんけど、しっくり来ないままだったんですよね。うーん、やっぱり魅力がわからなかったです、すいません。

菅野でも、嶋野くんの意見があったおかげで議論が立体的になったと思います。

佐々木テクノロジーを使って障害者の社会参加を支援する施策としてうまくいっていると思いました。正面から向き合いにくい問題に対して、分身ロボットのカフェを作ることでみんなが話題にしやすくしたところを高く評価しました。

三浦僕も高い点数をつけました。PRの役割として社会のあり方を変えていくことがあると考えたときに、多くのPRは世の中の論調を変えることで実現してきたのだと思います。でも、これは技術によって課題そのものを解決することと、その様子が報道されることで社会の論調を変えるという2輪で施策がワークしていることが素晴らしいと思いました。テクノロジーを使ったアートや、テクノロジーを使ったマーケティングがある中で、テクノロジーを使ったPRとして今後の指針になるような取り組みだと思いました。

東畑僕は社会課題の解決に貢献しているだけでなく、人は誰かの役に立つことで生きる力を得ているんだという当たり前だけど忘れがちなことを、すごくエモーショナルなメッセージとして教えてくれているんだと感じました。とても広い意義のある仕事でした。

細川誰の心にもある「役に立ちたい」という思いを、こういうかたちで伝えることができたのもすごいし、ロボットというものの見方も変えたと思います。テクノロジーは決して無機質なものではなく、人々の思いの受け皿にもなるんだと示したところも評価したいと思いました。

菅野コロナ禍で需要が増した学童保育施設にローソンがおにぎりを提供した施策です。メディアで大きな話題になり、ちゃんとPRとしてもワークしていたと思います。

原野画期的なアイデアではないですが、食べ物を提供しようとしたら衛生面の配慮だけでも大変じゃないですか。特にコロナ禍ということもあり、スピード感を持って実現したローソンさんの行動力は褒められていいと思います。必要なことをすぐにやったという意味で、企業による社会貢献のお手本を見せてもらった気がします。

菅野正しいことを正しいタイミングでやることがブランドへの信頼につながるので、奇をてらったわけではない、こういう誠実な施策も評価していきたいですね。

この時期は感染症対策についてもまだまだよくわかっていなかった中、エッセンシャルワーカーとしてコンビニで働いている人たちのモチベーションを上げることにも貢献したと思います。そこも大きな評価ポイントでした。

栗林SNSが普及すればするほど、企業の下心が透けて見えるようになっていて。下手に企画を入れると、世の中のためになる取り組みがうまく機能しないこともあると思うんですね。その意味でこれは真逆の施策で、本当にローソンはこれをやりたかったんだろうなと感じられました。だから、関係者も協力したくなったし、メディアにも取り上げられたんだろうと思います。

菅野企業の姿勢がストレートに表れた施策でしたね。

橋田実行する人の魂がこうやって企画やアウトプットににじみ出るんだな、と勉強になった施策です。

菅野コロナ禍を機に競技を辞めてしまう学生アスリートに対して、スポーツへの情熱を持ち続けてもらうように働きかけたツイッター上のハッシュタグ企画でした。

尾上これはSNSで自然と見かけていた施策で、ちゃんと広まっていたと思います。反響が大きかったことから社団法人も立ち上げ、今でもちゃんと活動しているのもいいなと思いました。

菅野多分、ここまでの規模になったのは、著名なアスリートが共感して積極的に広めてくれたのが大きかったようです。

尾上この問題は大きすぎて、誰がどう立ち向かえば解決につながるのかわからない中で、ツイッターでの小さな呼びかけから、課題解決に協力したい人たちが集まれるプラットフォームに育てていき、かつ継続しているのがすごいですよね。

原野僕は心が薄汚れちゃっているから、草の根で広まったムーブメントをまとめて社団法人化した大人がいて、そこがACCに応募してきたのかと思ったんですよね。でも、だとすれば、その広告関係者がやった仕事はなんなんだと思ってしまいます。
それは応募の主体が誰なのかということで、この運動を最初に始めた人たちが応募してきているならいいんですけど、ムーブメントに乗じて自分の功績にしたい人がいるのかもしれない。そこ次第で応募の意味がまったく違ってきちゃうから点数をあげにくかったんです。

ご指摘の点はおっしゃるとおりだと思いつつ、社団法人化することで寄付を受けやすくなったり、活動が継続しやすくなったりすることも確かだから、知恵のある人が自然発生的なプロジェクトをまとめ上げ、仕組み化して軌道に乗せることを評価していいのではとも思いましたが。

原野確かにそうですね。

僕も本屋大賞を最初は有志で立ち上げたんですが、社団法人化したことでいろんなことができるようになったから、そのメリットはすごくわかるんです。

原野草の根のムーブメントを草の根で終わらせないようにしてあげたということですね。その解釈でいいと思います。

東畑めちゃくちゃいい議論だったと思います。勉強になりました。

生理について語ることがタブーであるかのような日本の文化を変えるということに挑戦して、結果的に生理にまつわる議論が多数なされたということは評価すべきだと思いました。テレビ東京で生理をテーマにした番組が放送されたりしたことを考えると、よりこの運動体が目指したことが浸透しつつあるのだなと思いました。また、これもテーマの実現のためには長期的に取り組まないといけない仕事です。

原野これはプロジェクトの前半と後半で僕の中の評価がまるで違います。全部見ると年間でもっともがっかりしたキャンペーンという印象です。ハヤカワ五味さんとか言い出しっぺの人たちが「#NoBagForMe」というコンセプトを作り、生理について自由にディスカッションする場ができたところまでは100点に近いくらいだったんですよ。
問題はそのあとで、ユニ・チャームが引き継いでから生理用品のパッケージデザインを変えるプロジェクトになったんですよね。「生理用品だからといってコソコソ買う必要はないんだ」と言うための運動が、生理用品に見えないようなかわいらしいデザインのパッケージに着地したことで、そもそもの問題提起と最後に出てきたアウトプットがバラバラになってしまったと思います。

三浦僕も近い印象を持っていて、大きな文脈に沿って企業のプロダクトを置くことは良かったと思うんですけど、実際に目指していた志とはちょっとズレてしまった。「#NoBagForMe」というコンセプトは面白いと思っていましたが。
少なくとも僕は紙袋が生理用品を買う際にマストであることを知らなかったんですね。だから、そこを変えようとするのは象徴的なアクションで面白いと思ったのですが、おっしゃるとおり「生理用品に見えないパッケージ」に着地してしまったところが、手放しで素晴らしいプロジェクトだと言えないもどかしさになっていると感じました。

嶋野生理について啓発する取り組みは海外のほうがはるかに進んでいて、日本が遅れている現状がわかっている中、こういうときは「とりあえず挑戦してみた」という点を評価してあげてもいいのかもとは思ったんですよね。ただ、「とはいえ施策としての完成度はどうなの」という点を厳密に見るべきとも思うので、どうしたらいいかなと評価を迷いました。

細川私は「#NoBagForMe」というハッシュタグに対して賛否両論あったことも含め、話題化したことがいいなと思っています。明らかに周囲の女性たちが生理について堂々と話すようになったし、SNSでも「今日は生理でつらい」と今までより気軽に言える雰囲気を作ったと感じます。
「NoBagと言いながら結局はかわいいパッケージで隠すの?」というツッコミも「なるほど」と思いつつ、「じゃあどういうパッケージがいいかな?」という議論につなげていけばいいと思うんですね。「生理用品だからこうであるべき」という決まりはないし、「かわいくてテンションが上がるならそれでいいじゃん」という気もしました。議論はつなげていけばいいことなので、いちばん大きく空気を変えたキャンペーンとして評価すべきじゃないかと思いました。

橋田生理っていうタブーに近いところを触りにいって炎上したキャンペーンもある中で、これは賛否両論を踏まえて議論を続けたことがえらいと思っています。パッケージデザインがどうかというよりは、最初のテーマ設定の正しさと、いろんな地道な取り組みで総合的に空気を変えていったことを評価したほうがいいんじゃないでしょうか。
SNS上で「生理」に関する会話量が前年比2倍になったというリザルトがちゃんと示しているのも、本来の目的がここにあるからだと思うんですよね。その意味で細川さんがおっしゃるように、女性たちが生理について話しやすい空気感を作った施策として評価に値すると思いました。

佐々木この手のネットを使った新しい合意形成って、頑張ることができる人向けになりがちじゃないですか。でも、世の中にはそこまではっきり意見を言えない人もたくさんいるわけで。生理用品のパッケージをちょっとかわいくすることは、「やっぱり隠さないで買うのは恥ずかしい」という人を間違いなく救う施策にはなっていると思いました。

菅野子どもたちが自ら街を歩き、その土地の文化や歴史に触れることを促進する「おさんぽBINGO」というコミュニケーション・ツールのPR施策です。プロジェクトの第一弾では、気仙沼の小学校で行われた授業の模様と、子どもたちが実際に作った自分の街ならではの「おさんぽBINGO」が紹介されていました。

尾上僕はこれ素晴らしいと思いました。教育目的を超えて拡大解釈してしまっているきらいもあるのですが、とかく近場での楽しみの発掘が言われている中で、これは気仙沼だけじゃなく、どこでもできると思うんですよね。これを作る人は自分たちの地域についてより知ることができ、これを使って散歩する人にとっては観光ツールにもなる。PRとして何の合意形成しているのかは悩ましいですけど、観光促進や地域教育のための大きな道筋を作っている仕事ではないかと思いました。

原野今回でいちばんいいかなと思ったくらい高く評価しています。僕は寅さんのロケ地巡りで日本中を旅しているのですが、どこに行っても似たようなものばかりなんですよね。でも、これで完成した「おさんぽBINGO」を見たときに、すごく丁寧なプロセスで作られていることがわかったので、観光ツールとして見ても心が動くいいものだと思いました。
それに子どもたちは発見上手でもある。そういう子どもの力を利用しつつ、彼らの教育にもつながるように設計されています。ワークショップとしての最終的なゴールも明確だし、制作のプロセスも歩いて自ら見つけさせることで普段とは違う学びになる。脱帽のアイデアでした。

橋田草の根運動的ではあるのですが、今後の広がりの可能性はとても感じる施策でした。パブリック・リレーションズという意味では、街と子どもだったり、街と観光客の新しい関係を作っているという点で、いいプロジェクトだと思いました。

菅野東京2020オリンピックの注目度を地方でも高めるため、オフィシャルパートナーである日清食品が企画したPR施策です。各地のご当地企業とコラボレーションし、地元のローカルCMそっくりな五輪CMを世界的アスリート(八村塁、大坂なおみ、錦織圭)の出演で制作しました。

栗林もう最高でした。地元と親和性の高いフォーマット(ローカルCM)に、もっともマスな人(世界的アスリート)を掛け合わせたアイデアがすごいと思いましたし、どちらの素材も無理なく活用して面白く消化できています。PRとして社会的合意を形成したかどうかは弱いかもしれませんが、とにかく素晴らしいプロジェクトとして高得点を入れました。

菅野コンテンツとして面白いですよね。

橋田手法とやっていることのバカバカしさは好きなんですけど、オリンピックを盛り上げたいのか、地元を盛り上げたいのか目的を捉えづらくて。どちらに力点を置いた企画なのか気になりました。

栗林本来はオリンピックのアセットを地方へのPRにも使うことで、東京の熱を全国へ伝播させようという目的だったわけですよね。

菅野それでいうと「楽しいことをやったらカップヌードルが売れた」というだけにも見えました。

橋田「さあ、みんなで楽しみなオリンピックを盛り上げよう!」というPRにはなっていなかったと思うんです。

菅野ざっくりみてしまうと、世界的アスリートを活用したただの商品プロモーションにも見えかねないところが議論のポイントでしたが、表現の面白さが高く評価されました

菅野観光都市である別府市の飲食店を支援するため、市をあげてテイクアウト需要を盛り上げた施策でした。

尾上コロナ禍における飲食店の救済企画として、全国的にもかなり早かった取り組みじゃないかと思います(2020年3月18日より実施)。この時期はみんなが、「何をやったら正解なんだろう」と悩んでいた中で、地方の街がいち早く始めたことにより、「こういうことをやっていいんだ」という空気を全国に作っていった。そこが意義深いと高評価しました。ネーミングやデザインも、とにかく勢いを重視して作った感じが好きです。

原野他の地域にも広まっていったことで、結果的にアイデアのポテンシャルを証明した取り組みでした。あと「エール飯」という名前もしっくり来ました。とにかく勢いがあるロゴタイプも、完成度を突き詰めてないからこそ、みんなが真似しやすかったのでしょう。世の中がコロナ禍にどう対応したか総括する意味でも、これは外せないと思いました。

栗林お二人がおっしゃることは同意しつつも、コロナ禍の取り組みを評価する際には、どこまでそれが本質的に残っていくものか見ないといけないと思っています。その意味で「#別府エール飯」は、ちょっと瞬間風速で終わってしまった印象がありました。アイデアとして強度があれば今も広がりつつけていると思うので、そこが惜しいなと思いました。

菅野プロモーション/アクティベーションでも高く評価された施策でしたが、PRでもエントリーされていました。「雪見だいふく」の新しい食べ方や味を、生活者や企業との共創で作り上げた施策です。

三浦レギュラー商品として見慣れたプロダクトを、みんなの声でアップデートするという点では、これこそよくある企画ではあります。ただ、そこに法人企業がどんどん巻き込まれていったのが素晴らしいと思いました。特に日本で企業を横断した取り組みをしようとした場合、メディアや国が主導するものがほとんどでしたよね。そうした中で企業のプロダクトが真ん中にあり、そこにいろんな企業が巻き込まれていく、しかも楽しい仕組みであるところを高く評価しました。

細川いい施策だと思いつつ、プロモーション/アクティベーションとしてのほうが評価しやすいとは感じています。PRとして評価する場合、この企業がこの企業とこんなことやるんだという驚きはあったけども、世の中の価値観を変えたかと言われると、そんなにずば抜けてはいないのではないでしょうか。

三浦僕が感心できたのは、ほとんどのPRは生活者との合意形成に留まってしまう中、これは競合各社を関係主体として取り込んで、彼らを味方にしたところなんです。それは極めてパブリック・リレーションズ的だと思います。

細川そうですよね。競合も巻き込んだところは新しいと私も思いました。

栗林今は企業同士のアライアンスの組み方がすごく大事なのですが、その意味でこれは売りにつながるアライアンスになっており、そこが企画としての強さだと思いました。協力を呼びかけた企業だけでなく、そこに賛同した企業の商品も売れる仕組みになっている。だから、いろんな会社を巻き込めたんだと思います。
もちろん、「雪見だいくふう」というネーミングのキャッチーさもあるのですが、あくまで下から「助けてください」という姿勢でいったことで、生活者だけでなく企業も乗りやすくなった。そういう緻密な仕掛け方も新しいと思いました。

東畑僕も「雪見だいふく」というブランドから、無理なく新しいリレーションを作ったケースだと思っています。ただ、プロモーション/アクティベーションで最高点を入れたので、PRとしても評価したら矛盾になるのではないかと悩ましいところでしたが。

確かにライバル企業も巻き込んだ合意形成をしたところはPRとしての評価ポイントですが、そこにどれだけ新規性を認めるかが悩みどころでした。企業同士のコラボはそれなりに前からあったわけで。プロモーション/アクティベーションで褒めればいいのではないかと思いました。

橋田僕もプロモーション/アクティベーションとしてのすごさは認めたうえで、合意形成という視点でちょっと腑に落ちないところが、PRとしての評価に悩んだポイントでした。

尾上リレーションを組んだのが、なんでこの企業だったのか。テーマではなく、それこそ企業の都合によって決まっている感じがしてしまいました。

栗林「亀田の柿の種」のピーナッツと柿の種の理想的な比率を、みんなに問いかけることでPR施策にしたシンプルで面白い企画でした。僕は広告でもPRでも、商品の中に議論したくなるポイントを見つけることが大切だと思うのですが、中身の比率を議論するだけでなく、実際の商品開発にまで踏み込んで反映させる例を見たことがなかったんです。
本当に比率を変えた商品が出たときには、僕自身、どっちが好きか友だちと自然に議論したくらい実装力が高い施策で、めちゃくちゃワークしていたと思いました。

尾上ピーナッツの配分を減らして余るようになったことで、ピーナッツだけの商品が出たことも含め、よくできた施策だと思いました。そこ絶対に問題にする人がいますから。

嶋野何かを変えるときって、変える前の状態が好きだった人も当然いらっしゃるわけですよね。そういう我々が忘れがちな部分のケアをちゃんとやっていることも参考になりました。

菅野これは何の社会的な認識の合意形成を実現したんでしょう。単純にプロモーション/アクティベーションの施策にも見えちゃったんですよね。

第三者を巻き込んで議論を起こすのはPRの重要な要素です。そういう意味では今までの商品イメージを変えるマーケティングPRの一環として捉えていいかと思いました。ただ、「『きのこの山』と『たけのこの里』のどっちが好き?」みたいな施策もあったわけで、既視感もありました。もちろん、「亀田の柿の種」でここまで世の中が盛り上がれるんだという面白さはありました。

三浦僕も嶋さんと同じイメージで捉えていて。商品にまつわる議論をコンテンツ化する施策は過去にもありましたが、細かい部分への配慮や議論の盛り上げ方も含め、こういうキャンペーンの中では本当に完成度が高いと思いました。
多くの人が話し合いたくなる問いを作ることがPRでは重要であると考え、僕らはついつい社会課題にばかり手を伸ばしてしまうのですが、自社商品を主役にし、くだらないことを議論のテーマにまで高めたところは、問いを作るPRと施策としての面白さの接合のさせ方として素敵だと思いました。

橋田既視感があると言われたら確かにそうかもしれないですが、そもそも「亀田の柿の種」という商品において、この比率はめちゃくちゃ本質的な問いだよねということでもあった気がして。僕も質問されたら自分なりの理想的な比率を答えちゃいますもの。そういう誰もが持論のあるPRポイントを商品の中から見つけたという意味で、過去の似たキャンペーンよりうまかったのではないかと思いました。

大きな社会のモヤモヤというより、身近で小さなモヤモヤというか。「食パン何枚切りにするとうまいのか?」みたいことを発見して着火させる技術はすごかった。

菅野マグロの品質を判定するAI「TUNA SCOPE」を使い、職人に代わってマグロの買付けを実施。さらにAIが最高品質として認めたマグロを「AIまぐろ」として販売する取り組みでした。実は「TUNA SCOPE」自体は以前も出品されているのですが、今回はくら寿司さんと組んでビジネス展開をしたことが大きな進化で、それを踏まえて改めて応募ということでした。

マグロの目利き職人が減ってきていたり、コロナ禍で海外に渡航して買い付けることが難しくなってきている中で、くら寿司というマグロを提供する企業がテクノロジーを活用し、新しい魚の仕入れ方を実装までした点は評価すべきと思いました。

橋田以前は「TUNA SCOPE」というものができました、で終わってしまっていたのですが、それがくら寿司による実装と結びつけることで、B to Bのリレーションを作り、実際にお客さんの元まで「AIマグロ」を届けることに成功した。そこまで広がったから、「みんなにも関係のある技術だよね」とニュースに取り上げられるところまで来たんだと思います。ここまで諦めずに続けてきた努力は素敵だし、開発者の「思い」がすごくこもっていると感じました。

三浦PRは線や面で評価しないといけないと思うのですが、新しい仕入れ様式や「AIマグロ」という新しい言葉を作ることで、くら寿司を中心とした漁業文化全体をアップデートしたところも素晴らしいと思いました。

東畑三浦さんが指摘したように、事業クリエイティブじゃないですけど、ツールを作っただけでなくビジネスとして実装したところに、広告会社が領域を広げていくためのヒントがあるんじゃないかと思いました。

嶋野別のところでも言ったように、僕はPRの評価基準としてアーンドメディアへの取り上げられ方を軸にしているのですが、これは「買わない理由」の100円買取キャンペーンで5万件、つまり500万円の予算とアイデアだけで成立した企画ですよね。めちゃくちゃメディア露出の効率がよく、その裏には大人の緻密な計算があるはずで、そこをしっかり褒めたいと思いました。

細川日本人はSNSにネガティブなことを書き込みがち、という傾向を、ポジティブに活用したキャンペーンで、普通ならお菓子会社さんが嫌がりそうなところをユーモアでくるむことで実現したのが素晴らしいと思いました。そこに「雪見だいくふう」よりPRとして高い点をつけられる気がしたんですよね。

嶋野どこか既視感があるなという施策と、確かにこれはやったことないよねということの違いかなと思いました。僕もこちらのほうがPRとして評価しました。

栗林僕も企画設計が抜群だと思ったのですが、何よりすごいと思ったのが空気づくりのところです。「ネガティブな意見を言ってもいいよ」としたときの空気のコントロールの仕方がすごいと思いました。公式が投稿例を示すときに率先して自虐オーラを出していて、ユーモアのある投稿を待っている空気を作り上げていたことが、とても巧みでした。

むちゃくちゃチャーミングで、むちゃくちゃエフェクティブで、もちろんブランデッド・コミュニケーションの部門で褒めてあげたいけど、ミッションの部分で明確に「SNSで売上を回復すること」が目的と言っているから、これはプロモーション/アクティベーション領域で評価しようと思ってしまった。
もちろん、PRとプロモーションは手法がクロスするところがあるし、それぞれの技が混在して施策を成立させていくのが今どきのコミュニケーションともいえるから、プロモーション的な施策にPR要素が包含されていて、そこがすごいと褒めるのはありだと思いますが。

菅野デジタルテクノロジーで各国の競技場をつなぎ、男女、障害、国籍を超えてバトンをつなぎあうリレーを実現しました。国立競技場のオープニングセレモニーとして開催された施策でした。

原野アイデアとしてはベタかもしれないですが、オリンピック・パラリンピックの志をシンプルなイベントにしたのはわかりやすいし、大会の本質を人々に伝えるものになったのではないかと思います。

三浦上位にエントリーされた施策の中で、唯一これだけ知らなかったんですよね。どれだけの人に認知された企画だったのでしょう?

視聴率10%のテレビ中継と、これを報じた媒体露出をPRのリーチとしてどう評価するかだったよね。

橋田僕は単純に新しい国立競技場のデビューがこういうかたちで良かったと誇らしく思いました。オリンピック・パラリンピックの本質を表現していることもそうですし、日本人が苦手なダイバーシティやインクルージョンというテーマをスポーツが実現し、この競技場がその象徴になっていくんだという決意も打ち出している。そこに関係者が込めた意志がずっと残っていけばいいなと思います。

細川単純にオリンピック・パラリンピックを盛り上げようというのとは違う、スポーツの力はこういうことだよねと可視化した企画としていいと思いました。

栗林僕も施策自体は価値があると思います。でも、三浦さんと同じように開催時は全然情報が届いてこなくて。SNSで話題になっていた感じもしなかった。しかも、実施映像を見たときも心が動かなかったんです。
どうしてなのかなと考えると、大義として見えない壁を壊すってことはわかるんですけど、もうひとつテクノロジーを使って場所の壁を超えるということが、掛け算されているようで、実は足し算にしかなっていないのではないかという気がするんですよね。ぱっと見た映像で何が起こっているのかわかりにくいし。だからこそ感動を人には伝えづらくて広がりきらなかった。つまり、合意形成しきれてないのではないかと思うところがありました。

菅野埼玉西武ライオンズが社会的意義のある取り組みとして、球団のシンボルである「野生のライオン」の保護活動を支援した施策です。これは審査委員ごとの点数の分散が大きく、高得点をつけた人が3名もいるにもかかわらず事前投票では圏外となっていました。

嶋野最近の海外のPR賞で評価されるポイントをうまく抑えている施策だと思います。しかも、自社だけで取り組むのではなく、「LION」の名を冠する世界中の団体にも賛同を呼びかけました。日本から世界に活動が広まっていったPRはあまり見たことないケースとして、私は高い点数をつけました。

東畑私も高く評価しました。アライアンスの組み方がすごくユニークです。「西武ライオンズ→SAVE LIONS」というダジャレから始まったものではあるのですが、さまざまな国のスポーツリーグがライオンでつながっていくのが面白いと思いました。カテゴリー分類が難しいのですが、どこで評価するといったらPRかなと点を入れました。

細川私もダジャレの言葉の強さでここまで引っ張ったところと、でもそれを旗印にして活動を広げたところを評価して高い点数を入れました。

橋田企画にアイデアはあるんですけど、今後もずっとやるのだろうかという意味で、この先の展開があまりイメージできなかったですね。

尾上なんかしっくり来ないんですよね。さまざまなメディアで活動が報道されることで、来場者が増えたというリザルトが示されていますが、実際のところ、どれだけ試合の集客に関連性があるんだろうと思ってしまいました。アクティベーションじゃないから、球団の存在感をスポーツファン以外にも高めるということでいいのかな。

嶋野マーケティングPRとしての効果が見えづらいのは、そのとおりだと思います。だから、僕としても施策の有効性というより、日本でもここまでやる人がいるんだと褒めたいという点が大きかったですね。

菅野再投票の結果、事前審査は圏外でしたが、評価が上がって入賞となりました。

菅野乾癬(かんせん)という慢性の皮膚疾患の患者さんに向け、製薬会社がアパレル開発に着手したプロジェクトです。

原野僕は妹が3人いるのですが、全員アトピー性皮膚炎で、この患者さんたちの悩みに共感できました。社会的意義のある活動として高く評価できます。また、この衣服があることによって、こういう病気を知らない人も患者さんの気持ちを知ることができるようになれば、世の中が変わっていくのではないかと思います。

菅野乾癬の患者さんの「フケのような皮膚片が肩に溜まる」「塗り薬が服につき取れない」「ファッションを楽しめない」といった課題をしっかり受け止めた服を作っていて、素晴らしい施策だと僕も思いました。

尾上アパレルじゃない会社がターゲットの課題解決に服を通じて取り組んだ先行事例という意味で、今後いろんな課題にファッションで貢献できる可能性を探ったプロジェクトとしても高く評価できました。

原野これは杉山恒太郎さんの受け売りなのですが、批評なき業界は廃れると思っています。ハリウッド映画にしろブロードウェイミュージカルにしろ、ものを作る人と批評する人の緊張関係が文化の水準を上げている。その点、日本の広告業界には批評がないんですよね。昔は天野祐吉さんの『広告批評』がありましたけど、今は情報が載る媒体しかない。

そうした中でコロナ禍という大きな事件が起こったときに、広告業界でもいろんな動きがあったと思うんです。撮影予定していたCMができなくなったので自撮りだけで作りましたとか、国民的なアニメキャラクターでポスターを作りましたとか。僕の友人のオーケー・ゴーも、医療従事者を称えるミュージックビデオを作ったり、いろんな取り組みがあったと思います。

その一方、コロナ禍を自分のたちの売名行為に使おうとする会社もあるなど、残念な取り組みもありました。今は批評がなくてSNSしかないから、自分で話を盛っていく人の言動が前面に出やすかったり、最初から人気のあるキャラクターやタレントを使って数字を担保しようとしたりと、さまざまなことがあると思うのですが、この日本赤十字社の施策は、なんとか評価してあげられないかと思わされたんですよね。

これは専門家の監修のもと、新型コロナウイルス感染症から心と社会を守るための心構えを伝える絵本アニメーションとして制作されています。有名なタレントもキャラクターも出ていないけど、コピーから絵のデザインに至るまで、広告を作っている人間の関与度100%で成り立っているコンテンツです。

こういうキャスティングに依存しない施策は、広告クリエイティブのレベルがよくわかります。僕はこれを誰が作ったのかわかっていないけど、コピーを読むほどに、練度の高いプロが作っていると感じたんですね。そういうものを日本赤十字社という公的な組織のPR施策として提案して実現したことにスポットライトを当てたい。

特にコロナ禍の初期に出た施策は、「手を洗いましょう」「家にいましょう」というメッセージが多く、それはそれで大切なことではあるのですが、このコンテンツではそれよりもう少し踏み込んで、「人間の恐怖心が生み出す差別やデマも怖いよ」という本質的なメッセージを見つけて短期間でかたちにした。
そういうクリエイターが2020年にいたということを、この批評なき広告業界に残しておくために、入賞はさせておきたいと思い、高い点数を入れさせていただきました。

東畑実は僕もいちばん高い点数を入れました。フィルム部門では残ってこない企画ではあるけど、すごく世の中に流通して視点を変える効果のある施策として、そうした質の高さを評価するならPRカテゴリーしかないのではないかと思っています。

僕も世の中の一定数の人が抱えているモヤモヤした感情に先回りして言語化してあげているという意味で、すごくPR的な施策だと思いました。

尾上僕はこれむちゃくちゃ好きですね。まず絶対に考えられないアイデアだと思いました。つまり、これを企画したチームは継続的にすみだ水族館とやり取りをしてきたはずで、オリエンから考えるというより、「いま何かありますか」「そういえば」という会話を交わせる信頼関係が背景にあるから実現できた企画だと感じました。
コロナ禍で水族館が休館を余儀なくされたときに、「チンアナゴが人間の顔を忘れてきているんです」ということさえ知ることができたら、あとは一気に進みそうな企画でもあり、そこまで情報を引き出せたのがすごいと思いました。
そして、何よりもこれが行われたゴールデンウィークの時期って、もっとも世の中に暗い雰囲気があったと思うんですよ。そのときに家族で擬似的に水族館に行ったような気分になれる体験を作ったり、こういうミッションを掲げることでより参加しやすくしたりとか、ひとつの企画でいろんなインサイトをついているなと感心しました。

菅野普通に暮らしていて、チンアナゴが人間の顔を忘れそうだからなんとかしなきゃとは絶対に思わないですから、課題の発見だけで勝ち目がありましたよね。

佐々木私もチンアナゴ好きとして応援したいと思いました。今年はコロナ禍のピンチを救う事例がたくさん作られた中で、水族館の抱える課題にユーザーを巻き込んで解決しようとしただけでなく、そこに参加したユーザー自身もハッピーになる、とても素敵なキャンペーンでした。

菅野単に「遠隔で水族館が見学できます」としてしまいそうなところを、「チンアナゴにあなたの顔を見せてあげて」と変換したところがいちばんキュートだし、課題解決に役立っている感じもありました。

グランプリ審査

【Aカテゴリー(デジタル・エクスペリエンス)】

菅野ゴールドの受賞が確定していて、グランプリの候補となっているプロジェクトは3つでした。「記事から株が買える投資サービス・日興フロッギー」「ポカリスエット『ポカリNEO合唱』篇 60秒」「『感電』MV YouTube公開企画〔 STRAY SHEEP CODE 〕」です。

米澤日興フロッギーさんの施策が、もっともユーザーに態度変容を促したサービスではないかと感じました。ポカリスエットや米津玄師さんの作品は、もちろんクオリティは素晴らしかったんですけど、「楽しかったよね」「いいもの見たよね」で終わってしまったというか。日興フロッギーさんは優れたサービスを作っただけでなく、「記事から株を買う」という株式投資の新しい習慣を根付かせるところまで実現したと思います。

菅野確かにポカリスエットや米津玄師さんは花火というか、ある時点での盛り上がりを目指したものだと思いますが、日興フロッギーさんは中長期まで見据えた構造を持った取り組みでしたね。そもそもの目的や目標が違うとも言えますが。

原野ポカリスエットは映像を中高生のセルフィー(自撮り動画)だけで構成したところが評価されたと思うのですが、メイキング映像を見ると、セルフィーの撮影現場が入っているんですよね。そうなると少し嘘を感じてしまいました。

栗林おっしゃるとおり、僕もそこだけが気になった点で、カテゴリー内の審査でも議論しました。

原野作品全体は爽やかで好きなんですけど、デジタル・エクスペリエンスとして評価するときに、嘘が含まれているのは気になりました。

菅野(審査委員全員で、メイキング映像を改めて見直して)がっつりメイキング映像のカメラが入っていましたね。自撮りをする学生のそばにプロのカメラマンが入ってしまっているんですね。せっかくソーシャル・ディスタンスを活かした企画なのに、、、という印象は受けてしまいました。もちろん、セルフィーを中高生たちが自分で撮影したのは事実なので、まったくの嘘というわけではありませんが、かなりの議論の対象にはなりました。

石下米津玄師さんの作品は、YouTubeのサムネイルっていう「ここも使えたんだ」というところを活用していましたし、モールス信号を迷える羊の“メールス信号”に変えていたり、以前からあるものをちょっとした工夫でうまく遊べる仕組みに変えていました。みんなが使えるツールの新しい提示があるのと、米津玄師というアーティストだからメジャー感のある表現になっている。そこがいいなと思いました。
日興フロッギーさんの施策については、個人的に数年前から株式投資をしていてライトユーザーの気持ちがすごくわかるのですが、初心者が何に不安を感じているか、本当に細かいところまで観察してサービスに反映させていますし、記事の物量も相当大変だと想像できるので、やりきった熱量がすごいと思いました。

菅野日興フロッギーさんは仮に自分が企画していたら、ちょっと躊躇しますよね。続けないと意味がない企画でもあって、継続的に機能するまでの努力が、とにかく大変だろうなと。

東畑3つとも素晴らしい仕事だったと思います。そのうえで日興フロッギーは、とにかく実装しているリアリティのパワーがすごかった。デジタル・エクスペリエンスのカテゴリーでは、発想の新しさや体験の新しさを評価してきたと思うのですが、これはもう一個先のユーザーの行動変容まで踏み込んでいます。我々の仕事はここまでやれるんだというヒントも与えてくれたし、このカテゴリーで褒めるべき施策じゃないかと思いました。

栗林グランプリは「業界にどんな示唆を与えるか」という意味で評価することも重要だと思うのですが、その意味でポカリスエットは作り方の知恵でここまでのものができるのだということが示唆的だと思っています。ただ、ソーシャル・コンテンツという文脈でいえば、嘘が混じっているように見えてしまうのが気になりました。
米津玄師さんの作品は、昨年の『君の名は』の施策に近い印象です。これだけメディアのタッチポイントが増えている中で、それでもまだまだ僕らが有効に使えていないタッチポイントがあり、メッセージの伝え方にもいろんな示唆があると感じました。
ただ、そのうえで僕がもっとも示唆的だと思うのは日興フロッギーです。最近のデジタル・エクスペリエンスでは、さまざまな企業がサービス領域にまで踏み込んで新しいユーザー体験を作っている中、ほとんどのものがうまくいっていないと思います。でも、これには(サービス領域で新しいユーザー体験を作るための)たくさんのヒントが含まれていると感じています。
具体的には4つあります。1つ目はモチベーション設計です。記事を読んでその企業を応援したくなったら株を買えるという仕組みがすごい。2つ目はユーザーインターフェース。堅いイメージがある投資メディアを、かわいらしい絶妙なデザインで設計している。3つ目は1200本の記事を書いた胆力。最後はビジネスとしての設計です。
これは「どうやって記事を読んでもらうのか」の設計がいちばん難しいと思うんです。そこでドコモと組むというインパクトのある解を見出して、ちゃんとPVを伸ばした。こうした4つのポイントのどれもすごいし、これらをちゃんとやりきることで、新しいユーザー体験を提供するサービスはうまくいく。そういう示唆があると思うので、ここで評価したいと思いました。
そして、何より「投資は企業への応援」という本質を踏まえたアイデアだから、ここまでユーザーの行動変容を起こせているのだなと感じています。

佐々木どれもゴールドに値する素晴らしい取り組みだという前提のうえで、デジタル・エクスペリエンスのカテゴリーとして、どれを褒めるかだと思いました。そうすると、ポカリスエットはコロナ時代のインサイトをよく捉えた取り組みではあるけど、「優れたフィルム」かなとは感じます。
日興フロッギーはみなさんがおっしゃるとおりだとは思うものの、このカテゴリーのクライテリアで悩んでしまって。この部門は「イノベーティブではなくとも、よくできたデジタル体験なら褒める」でいいのか。個人的にデジタル・エクスペリエンスには、よくできたサービスのうえに、もう少しアイデアのジャンプがほしいと思ってしまうんです。
そうなると米津玄師さんの作品は、人がざわつく仕組みや、メディアの設計や、アイデアの発想に驚きがあったので、デジタル上の体験としてのクオリティでいえば、こちらをグランプリに推したいかなと思いました。

菅野ブランドへの貢献の仕方が三者三様なので、そこを審査委員のみなさんがどう捉えるかでしたね。全員から一言ずつもらいましょうか。

八木日興フロッギーはもちろんいいサービスで、ブランデッド・コミュニケーションとしても、資産運用を限られた人だけのものじゃなく、誰でも安心してやっていいものだというビジョンを体現したメッセージになっていた。その意味ではクラフトがあるかどうかという点でも、筋を通したクラフトがなされているという解釈ができると思いました。

嶋野僕は日興フロッギーにやや疑問を感じました。というのも、僕は株が大好きなんですよ。だからこそ、これは初心者やらないよねと思ってしまったんです。理由としては記事の内容で、初心者が参考するような記事になっていないかなと。本当に初心者向けなら、ヤフーニュースみたいに、「この企業が今日こんな発表した」をいっぱい出して、「それなら買ってみよう」という設計じゃないとダメだと思ったんです。
サイト上には「こんなこともできます」という“できることリスト”はいっぱいあるんですけど、「これやってみたい」という部分、つまり人間の感情を動かす部分があまり感じられなかったということです。だから、仕組みだけで評価していいのかと思ってしまいました。

八木でも、記事から買わせるってことが主な目的ではないんじゃないですか。もちろん、このサービスの機能のひとつではあるけれど、センターにある価値としては、この企業の成長を応援したい、この企業が好きだ、そういう視点で株を買ってもいいんだと呼びかけているコミュニケーションじゃないかと思います。

佐々木記事を読みながら株を買えるオンラインサービス自体は以前からあるので、何をもってこのサービスの新しさを評価するかだと思うんですよね。

嶋野くんの判断は合理的だけど、世の中には合理的じゃない人もいてこの仕組みに反応する人もいるのでは?と思ったな。

菅野日興フロッギーのブランデッド・コミュニケーションに対するソリューションはこういうものだというところから着想して、実際にワークするところまで成し遂げている点においては、構造的に褒めてもいいのかなと思いました。

清水クリエイティブといったときに、世の中を楽しくさせるプラスアルファのところでものを作っていた感覚が以前はありました。でも、最近仕事をやっていて、水道管を作っているような気がしました。
それはインフラや仕組みを作る仕事になってきているということで、こうして我々の仕事はエッセンシャルなものに近付いていくんだなと感じていました。特にこの一年はそれが加速した年だったので、日興フロッギーのような構造をうまくワークさせた取り組みは評価できると思いました。
ポカリスエットについては、好みの問題はさておき、単純に見たことのある映像だなと思ってしまったので。リアリティについても、ディレクションが入っている限りはどこまでいっても作られたものにはなってしまうと思います。だから、クラフト力が評価されているのかなと思いつつ、「そこまでかな?」という印象でした。

菅野確か、清水さんは前回の審査で「日々の音色」(SOURのミュージック・ビデオ)を想起させるとおっしゃってました。

清水そうですね。もちろん、すでに映像手法としてコモディティ化しているもので、それに似ているからなんだってことではないのですが、コモディティ化した手法を使って、その先を行ったわけではないよねと思います。

細川ブランデッド・コミュニケーション全体の志として、これからの広告の領域を広げていく取り組みを評価したいとあったので、それをいちいばん内包しているのは、日興フロッギーじゃないかなと思いました。打ち上げ花火で終わらない、今後に続いていく施策を評価したいです。
Cカテゴリー(PR)の「茶山台団地」の再生プロジェクトもそうなんですが、長くブランドに関わっていく覚悟が広告にも今後は必要とされるんじゃないかと思っているので、ほかのカテゴリーも、そういう視座で選ぼうと思っています。

上西Aカテゴリーの3つは、実はBカテゴリーでも上位に入っているんですよね。特にポカリスエットの場合は、これだけ中高生が一連のプロモーション/アクティベーションに参加して、ここまでの規模としてワークしているのが素晴らしいと思うので、そっちで褒めればいいんじゃないかと思いました。
私はデザイン部門の審査もしていて、そこでも事業の永続性や社会性にどう貢献しているかという話がすごい出たんですね。私も広告が事業とともに長い時間をかけてやっていくという方向はもちろん大切だと思います。ただ、その一方で「今この商品を売りたい」というクライアントの思いに寄り添いながらブランドを築いていくことの大切さもあって。そういう違う時間軸の取り組みをどう評価すべきか答えが出ずに、昨日から悩み続けています。

菅野ありがとうございます。ゴールドまでは完成度で純粋に評価していいと思うのですが、グランプリは「どれを選んだか?」にメッセージ性が生まれてしまうので、今後のクリエイティブ業界にどんな発信をするかが重要な議論です。

上西個人的には、コロナ禍で資産形成をしなくちゃと思って楽天証券を開いたんですよ。でも、まだ一回も買ってなくて。やっぱり株は素人にとって始めるハードルがすごく高いんですよね。ただ、日興フロッギーのサービスを知って、これで始めてみようかなと思えました。私には響いたんですよね。
そのうえでデジタル・エクスペリエンスといったときに、米津玄師さんと日興フロッギーでは、さっき言ったキャンペーンなのかサービスなのかってところで難しいと思っていて。米津さんは私たちに普段与えられることの多い課題を、アイデアと丁寧な作り込みで乗り越えているから評価したいという思いもありました。

畑中コロナ禍に広告だからこそできることがきっとあると考えたとき、最初に思ったのがやはりポカリスエットで、それだけ世の中にインパクトがあった作品でした。だから、この部門の出すべきメッセージとして、ポカリスエットはグランプリに推すに足る風格があると思いました。
ただ、Bカテゴリー(プロモーション/アクティベーション)にエントリーされた実績が圧倒的なので、そちらのほうが正当に審査しやすいのではないかと感じました。デジタル・エクスペリエンスかどうかをここで議論するより、僕はBカテゴリーでグランプリかどうかを議論すべきだと感じました。

橋田僕はフロッギーがグランプリになるのがいいのなという意見を持っていました。個人的に、このアウトプットに辿り着く道筋がわからなかった。それはこの取り組みがクリエイターとして新しいからなんじゃないかと思っています。ACCがこれを評価することで、「これも目指すべき山のひとつなんだ」というメッセージになることの意義が非常に大きいのではと思ったんです。
清水さんが「水道管を作る仕事」とおっしゃっていた通り、これに「どんなすごいアイデアがあるのか」と見てしまうのは、今までの自分たちの価値観でジャッジしているような気がしていて。これは実現の仕方と、細かいところのサービス設計の部分が、自分たちに対しても目指すべき山なんだと示してくれたという意味で、頭ひとつ抜けているという意見を持っています。

イムポカリスエットについて言うと、僕はデジタル・エクスペリエンスのカテゴリーにオンラインフィルムが応募されていたら、問答無用で低い点数をつけていたんですね。それは「オンラインにフィルムを載せたらデジタルなの?」っていう疑問が昔からあり、そこを評価し始めたらきりがないと思っていたからなんです。
でも、このポカリスエットはコロナ禍でZoomがみんなの意識の中に根付いている中で、ああいうマルチビューの映像を見ること自体がデジタルの体験になり得ていると思いました。そのうえで距離が離れている人たちがひとつのものを作っていくときに、デジタルならではの広がりと、デジタルだから距離が近付いていく、その両方の感覚が表現されていると感じました。だから、個人的には最高点をつけました。米津玄師さんの作品もアイデアが嫉妬するレベルで素晴らしいと思いました。
ただ、みなさんのお話を聞いて、グランプリには日興フロッギーを推したいと考えるようになりました。僕はクラフトマンシップという言葉にこだわりを持って仕事をしてきたのですが、それは要するに「ちゃんと作る」ということなんですね。その審査基準でいうと、さまざまな折衝や条件を突破して、しかも株式投資とユーザーとの距離を縮めるようなサービスをきちんと実装した日興フロッギーをしっかり評価したいし、グランプリを受賞してほしいと思ったんです。

小杉可能性っていうところを評価する意味で、日興フロッギーを推したいと思いました。僕らはブランドの顔つきを変える仕事が多い中で、サービスそのものからブランドの人格を変えることで株式投資の敷居を下げ、新しいコミュニケーションを開拓しているという意味で、グランプリがふさわしいと感じました。

小布施日興フロッギーのコミュニケーションを内包したサービスという点において、広告業界から見るとすごく新しいと思っています。これが評価されることで、今後はスタートアップのデジタルサービスまで応募されるくらいの可能性を秘めていると思います。このカテゴリーが出すメッセージにふさわしいのではないかと感じました。

三浦僕はどれもユーザーとして体験したんですが、日興フロッギー以外は作品の受け手としての感動なんですよね。でも、日興フロッギーは体験に感動することで受ける変化の幅が大きいと思いました。デジタルで体験をアップデートするという評価軸では、日興フロッギーがもっともこのカテゴリーの真ん中に置くのにふさわしいと思いました。

井上ポカリスエットはどこかではグランプリをとってほしいと思っていました。もちろん広告業界としてのメッセージも大切なんですけど、世の中に向けた視点も忘れてほしくないとは思っていて。その意味ではポカリスエットがいちばんインパクトの大きい作品だったと感じました。
もうひとつ、日本は投資系の取り組みがすごく遅れているじゃないですか。でも、海外でロビンフッター(投資初心者の個人投資家たち)がいっぱい生まれているように、きっと今後は日本でも個人向けのサービスでカジュアルダウンされたものが広がっていくんだろうなと思っていたときに、いい先行事例を作ってくれたと思いました。
しかも、スマートフォンで株式投資といったときに、SMBC日興証券のような古くからある企業が、これだけ柔らかいことをやってくれたことにも可能性を感じました。
その一方、これだけサービスに食い込んだ取り組みを、これからの広告人はやっていかなければならない。それは数年にわたってやりきるようなプロジェクトじゃないと評価されない時代に突入したことでもあるわけで、「これから大変だな」と思っています。

尾上僕もポカリスエットが「どこでもグランプリ受賞しないんじゃないか問題」として気になっていました。総体としてのストーリーが素晴らしいのであって、本当は特別賞にしたいくらのものだと思っていたんですが、デジタル・エクスペリエンスという意味では確かに突き抜けてはいないというか。どちらかといえばソーシャル寄りで、デジタルの体験としては新しさと驚きはそこまでないんじゃないかと思いました。それは米津玄師さんの作品もそうでした。
そんな中、日興フロッギーは長くワークするデジタル・エクスペリエンスを作り上げているという意味でグランプリに値すると思います。ゼロから価値を作り上げていったのもすごかった。

保持日興フロッギーのPV数の推移グラフを見ると、けっこう苦労しているんですよね。心が折れそうになったであろう時期を乗り越えてここまで来たことが伝わってきて、クライアントとエージェンシーの長期的な関係性を勝手に感じるんですよ。そこが今後も続いてほしいし、そういう関係性の作り方も評価していいのではないかと思っています。

僕らは一発でどう表現をやってきたけれど、企業と生活者のコミュニケーションが常時接続化している中で、今は長期の視点をどう持つか問われていると思うんですよね。その意味で日興フロッギーはいいなと思った。

菅野充実した議論の末、投票の結果、Aカテゴリーは「記事から株が買える投資サービス・日興フロッギー」がグランプリとなりました。

【Bカテゴリー(プロモーション/アクティベーション)】

菅野このカテゴリーもゴールド以上に相当するとなったグランプリ候補が3つありました。「雪見だいくふう」「ポカリスエット『ポカリNEO合唱』」「ゼスプリキウイフルーツ『BRAND RELAUNCH PROJECT』」で、どれも素晴らしく、壮絶なデッドヒートが予想されていました。

三浦僕は、ゼスプリキウイはカテゴリーど真ん中の仕事だと思いました。CM、店頭プロモーション、マーケティング、すべてに一貫してコミットしているという意味で高く評価したかった。
また、「雪見だいくふう」ですが、ユーザーに開発のアイデアを委ねるプロモーションはよくあると思いました。ただ、そこに競合他社も巻き込んだという意味で、PR発想のプロモーションとして素晴らしいと思いました。ポカリスエットは正直、ここのカテゴリーとしてどう評価すべきかわからないところがありました。
ただ、ポカリスエットはコロナ禍の世の中に対して、これだけ明るい影響を与えたということを、どこかのカテゴリーで褒めることは我々の使命として忘れないようにしたいなとは感じていました。

佐々木プロモーション/アクティベーションとして売り上げに直結しなくても、ファンが動いたのだとしたら評価に値するとは思うのですが、この中でポカリスエットの施策だけ、売り上げに影響を与えたというリザルトがないような気はしました。

菅野ブランデッド・コミュニケーション部門といいながら、ブランディング活動としていいことをやっている施策を褒める場がないよねという話にはなったんですよね。去年まではデザインのカテゴリーがあり、そちらで評価するといった棲み分けができていたのですが、今回からデジタル・エクスペリエンス、プロモーション/アクティベーション、PRの3つのカテゴリーになったので、その中で言うなら、これはアクティベーションとしての評価がふさわしいのではないかという議論になりました。

佐々木それなら問題ないです。確かにカテゴリーとしての評価に厳密すぎて、大きないいことをやっている仕事が褒められないと悩ましいですよね。

畑中ここでは企業のミッションをどう設定し、そこに対していかにアクティベーションしたかを評価すればいいと思うので、必ずしもプロモーションとして売り上げだけを評価の対象にする必要はないと思います。その意味では、ポカリスエットはTikTokの動画投稿数がアクティベーションする対象として設定され、実際に前年比300%を超える成果を生み出したから、このカテゴリーの評価にふさわしいと感じました。

大八木僕はあまり数の論理に支配されすぎると、クリエイティビティの評価の視点が抜け落ちる気はしています。だから、この時代の中でポカリスエットというブランドの物語を、どれだけの人が体験できたのか。そこに焦点を当てたほうが褒めやすいと感じます。
それにCMだけだとリアリティの欠如を感じていて、ムーブメントから僕らが勇気をもらえるような仕上がりになっていないとも思っていました。そこにTikTokの取り組みも合わせて見ることで、ポカリスエットのブランドとしての物語を、コロナ禍で実際に中高生たちが楽しんでいる風景を感じることができました。それがとてもきれいだったので、特にこのカテゴリーで推すべき仕事だと思いました。

上西コロナ禍でつらい中、自分たちで動画を撮って投稿する人がこれだけいるんだと見せてくれた。CMの素晴らしさはもちろんあるのですが、これには「中高生が本当にこれほど踊りたいのか?」という疑問をかき消すリアリティがあり、プロモーション/アクティベーションとして評価できたポイントでした。

井上まず、ポカリスエットはターゲットである中高生がたくさん動いた事実が成果として素晴らしいと思います。しかも中高生だけでなく、大人たちにまでもムーブメントとしてすごいなと感じさせたのも、広範囲にわたるプロモーション/アクティベーションとして評価できました。

嶋野僕は他の施策に比べ、ポカリスエットは商品が真ん中に来てないと感じたんですね。ダンス動画の投稿数・再生数が良かったからアクティベーションだよね、ブランデッドだよねというのは、YouTube広告の再生数を評価するように感じてしまって、プロモーション/アクティベーションという意味でも、他の2つのほうがふさわしいのではないかと思いました。

栗林大八木さんがおっしゃったように、ポカリスエットは物語や体験の深さはめちゃくちゃあると思っているのですが、アクティベーションとして本当に社会的に流行したかどうかは疑問を感じました。リザルトとしてSNSで680万インプレッションとか、ユーザー投稿数が1万3000本とか、そんなに多くはないなと正直思いました。業界はすごく盛り上がったけど、本当に世の中に知れ渡ったかどうかというところで評価が悩ましいなと。
例えば、YouTubeでは480万再生くらいしていたのですが、そこでいいねを押している人は1.2万人で0.25%だったんですね(※審査当時)。この比率を見る限りでは、ものすごく高い数値には感じませんでした。もし中高生に本当に深く刺さっていたら、反応の数が数十万になってもおかしくはないと思います。

米澤こういう計算が合っているかどうかわからないのですが、調べたら全国に高校は4800くらいあるらしく、1万3000を割ると、各学校で2~3人が投稿している割合になるんですよね。なんとなくスクールカーストの頂点にいる子たちが投稿している雰囲気があって、「これが高校生の総意だ」と解釈するのは怖いかなと感じます。

尾上リザルトには書いてないですけど、ポカリスエットはメディアに取り上げられた数も相当あるとは思っていて、そこも含めて総合的に見たら他の施策に劣らない露出があったはずです。ただ、投稿を促すグリップ力はちょっと弱いところが、プロモーション/アクティベーションとして褒めていいのかと感じさせてしまうところではあったのですが。
その意味で「雪見だいくふう」のグリップ力はもっと弱くて、レシピを1400人以上が投稿したと。それだけの人が動いたのは立派なことではあるのですが、それも投稿すると商品がもらえるといった要素に引っ張られた人が多くて。純粋にこの施策にアクティベートされたという人はあまりいないのではないかと感じました。
一方、ゼスプリキウイは売り場で実際にめちゃくちゃ見ますし、CMソングを子どもが歌ったりしていて、さらにYouTube動画のいいねの比率もすごいんですよね。ものすごく愛されていて、アドをかけずとも、みんなが広めている感じがありました。

畑中「雪見だいくふう」はインスタグラムの投稿数も500くらいなんですよね。そういった要素をいろいろ見ていくとアクティベーションとしての規模が見えてきたから、やはりポカリスエットとゼスプリキウイの2択かなと思っていました。
ゼスプリキウイは、キャラクター自体は以前から開発されたものだけど、この1年のリ・ローンチでのリフトアップがすごかった。コロナ禍に合わせた応援キャンペーンとか、さまざまなタッチポイントをキャラクターで埋めていったんですよね。プロモーション/アクティベーションのど真ん中であり、統合的なキャンペーンであり、これを評価しなかったら、業界というより家族に怒られるんじゃないかと思いました。それだけ一般に浸透したキャンペーンだったので。

大八木ゼスプリキウイの応援演説をしたいです。以前からキャラクターの設計が素晴らしいと思っていたのですが、それをすべてのタッチポイントにクラフトを入れたうえでやりきる。CMを見ても、ここ最近で格段に表現がレベルアップしていました。どこのスーパーにもゼスプリキウイがあるようになったのは、まさに広告クリエイティブのチームが力を合わせ、ゼスプリゴールドをキウイの代名詞になるところまで仕上げたからだと思います。まさに文句のつけようがない仕事だと思いました。

井上みんなが愛するキャラクターになったのがすごいですよね。こっちが仕掛けても店頭が全然動いてくれないってブランドが多い中で、勝手にキャラクターを使った売り場をお店の人が作ってくれたり、フルーツ売り場がキャラクターの売り場みたいになったり、自然と転がっていくことでワークしたのは率直に素晴らしいと思いました。

佐々木ゼスプリキウイは素晴らしいと思いつつも、過去の取り組みからの続きという感じがどうしてもしてしまって、今回新たに立ち上げた特徴が見えづらかったのですが、そこはみなさんどうでしたか?

保持僕は以前から好きで、ぬいぐるみを持っているくらいウォッチしてきました。それでいうと、今までは商品とキャラクターの結びつけがちょっと弱かったと思うんですね。でも、今回のリ・ローンチでパッケージにきちんとキャラクターを出すようになったり、メッセージの出し方も世の中の気持ちに寄り添うようになったと感じます。だから、仕込んできたものも大きいとは思うのですが、それが成果として結実したのが今回だったのかなと思っています。

栗林僕はキャラクターの人格をすごく持たせたのが素晴らしかったと思います。一連のプロモーションではポスターや動画のメッセージが優しいのですが、それがキャラクターの性格に紐付いているから、ここまで横展開してもブレずにワークしたのだと感じています。それも今回の成果として評価に足ると思います。特に今はデジタル上で人格をどう感じさせるかがダイレクトに影響するようになってきているので、その意味でも時代に沿ったプロモーションでした。

石下私もゼスプリキウイが以前から好きだったのですが、今回はすごく進化したと感じるんですよね。ちょっと前に「ゼスプリの歌詞が泣ける」とバズっていたり、細かいチューニングが時代にすごく合っていたと思って。広瀬香美さんが話題になったら、すぐにYouTubeで起用して動画を作ったりと、時代の空気を吸収して、すぐアクティベートするタイミングのセンスもすごいと感じました。あらゆる面でやりきっていて、きちんと昨年のキャンペーンよりもアップデートされていると思いました。

上西デザイナーとしても愛されるキャラクターデザインは難しくて、そこをちゃんとやりきっているのはすごいと思いました。ただ、デザイン部門でキャラクターデザインを審査しようと思うと、なかなか評価されにくい現状もあるんですよね。それがプロモーション/アクティベーションで評価されるのは、とてもいいことだと感じました。

細川栗林さんがおっしゃったことに近いのですが、ブランドに人格を作るのは難しいのに、それに成功している羨ましい事例だなと思っていました。しかも、それは改良を続けながら長くやってきた蓄積の成果で、こういうことをやっていくべきだし、だからこそ生活者の人からも愛されるんだと感じています。

小布施グランプリを何にするか悩んでいる状態でみなさんの意見を聞いていたのですが、地方のおじいさんおばあさんまで知られているという意味で、ゼスプリキウイはまさにプロモーション/アクティベーションのグランプリにふさわしいと思いました。また、「その手があったか」というよりは、ひとつひとつのクリエイティブが丁寧で人を動かした感じがあるので、マーケティング・エフェクティブネス部門でも評価されそうだなと感じています。
「雪見だいくふう」は王道のレシピ募集キャンペーンだとは思うのですが、商品を真ん中にしてユーザーのアクションを引き出しやすくしているところだとか、レシピを作ってみるとSNSに上げたくなる仕組みになっているとか、細かいところまでうまくできているのだと感じました。さらに他の企業まで巻き込んでいることで、「ここまでやれたらいいな」という到達点にもなっており、評価に値すると思います。その2つで迷ったのが正直なところです。

原野今は広告を作っている人やブランドが、世の中をどう見ているか問われる時代になってきたと思っています。その意味ではゼスプリキウイは、キウイを売りたい広告ではあるのに、直接「キウイは体にいい」とは言ってないんですよね。メインのコピーも「ヘルシーを楽しもう」となっていて、健康であることも大事だけど、何より楽しんで生きようってメッセージが強くなっている。
ブランドの人格という話が出ましたが、ゼスプリキウイというブランドの人格が持っている目線が共感できるものになっているから、歌を聞いて泣ける人もいるんだろうなと思いました。
ポカリスエットもいいとは思うのですが、このブランドの世の中の見立てはちょっと引っかかるところがあって。僕も高校時代に暗かった人物かもしれないのだけど、学校にもいろんな人がいますよね。CMはものすごくキラキラしていて、スクールカーストの頂点にいる人が出ている感じがあるから、そこを補うためにTikTokもやったのかなと、少しだけ見えてしまったんですよね。ダイバーシティはサブなんだなという。そう考えると、ゼスプリキウイの目線のほうが時代に合っていると感じました。
「雪見だいくふう」も好きな施策ではあるのですが、グランプリはポカリスエットかゼスプリキウイのどちらかだろうなと考えたうえで、僕はゼスプリキウイを推しました。

八木ゼスプリキウイに関してはみなさんと一緒です。どの仕事でも丁寧にやりきれば、このぐらいの成果を出せるんじゃないかと思わせるくらいインパクトのある仕事だと感じました。「雪見だいくふう」も、ほかの企業まで巻き込む共創のあり方が広まっていくことで、今後クライアントの意識まで変わっていくんじゃないかと感じ、応援したい仕事だと思わされました。
ポカリスエットはAカテゴリーのときからモヤモヤするところがありました。本来のCM企画ができなくなったときに生まれた偶発的な企画というか。もちろん、タイミングやスピード感が素晴らしいし、ターゲット以外の人たちまで勇気づけるようなものになったと思います。その意味でプロモーション/アクティベーションとして優れているというより、広告として素敵なものだと感じているので、これこそ特別賞というメモリアルな形式で褒めてあげるのがいいのではないかと思いました。

東畑何よりプロモーション/アクティベーションは総じてレベルが高いと感じています。ゴールド以外の施策もすごいと思います。どれも尊敬すべき仕事でした。
ゼスプリキウイはとにかく誠実な仕事です。ポカリスエットも僕はグランプリの風格があると思いました。2020年ならではの仕事になっていて、どちらにもグランプリを出してあげたいと思ったし、それが無理なら今年を代表するモメンタムな施策として、別枠でもポカリスエットは評価してあげてもいいと感じました。

清水僕はニューヨークにいるために、肌感覚としてゼスプリキウイの流行った理由が全然わからないんですよね。それは「雪見だいくふう」もそうなんですよ。語弊を恐れずに言えば、きっと海外の広告賞で審査したら、こういうものをスルーしてしまうんだと思いました。そのうえで結論を言えば、やはり施策が実施された国にいないと、こういう取り組みの評価は難しいんだなと。そういう身も蓋もないことを捨てセリフ的に言っておきます。

原野ゼスプリキウイの概要説明を読むと、フランスやドイツ、ベルギーなどでもこのキャラクターを使ってプロモーションを行っていくことになったと書いてありましたね。その意味では国を超えて使われるものになったみたいで、日本から生まれたキャラクターがこれだけの展開を見せるのは誇らしくありますよね。

イム僕はポカリスエットが個人的に心を動かされたことも含め、もっとも素晴らしいクリエイティブだったと思っていました。素直に「こういうものが作れたらいいな」って。若い子たちが集まり、大人たちと一緒に作ったものがアウトプットにつながり、それを見た僕みたいな人がポジティブな気分になる。コロナ禍だから外で遊ぶこともできないんだけど、部活をやっていた頃の気持ちを思い出させてくれたりもして。ほんと素直に前向きになれたので、賞全体として大賞みたいなものをもらってほしいなと思いました。

小杉僕はデザイナーとしてゼスプリキウイを応援したいです。僕もキャラクターを作ることがありますがが、日本のキャラクターは笑顔を出しすぎるというか。ちょっと媚びている印象を与えがちなんですね。でも、ゼスプリキウイはぽかんと口を開けた姿になっていて、ミッフィーのように受け手によって感情を読み取る自由がある。
そのあとの人格設定も解像度高くそれぞれのメディアの文脈に落とし込まれているところが、ブレない丁寧な仕事として表れているのだと思います。個人的にはキウイシールを貼ったままキャラクター化したことがぐっと来ました。これがいいシズル感になっていました。

菅野投票の結果は「雪見だいくふう」が2票、「ポカリスエット『ポカリNEO合唱』」が2票、「ゼスプリキウイフルーツ『BRAND RELAUNCH PROJECT』」が17票。グランプリは「ゼスプリキウイフルーツ『BRAND RELAUNCH PROJECT』」に決まりました。

【Cカテゴリー(PR)】

菅野Cカテゴリーでゴールドと評価されてグランプリの候補となったのは「4年半の茶山台団地再生プロジェクト」「Chief Future Officer」「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」でした。

PRの仕事は、既成概念を新しい合意形成によって変えていくという仕事を成し遂げた施策を評価すべきだと思うんですよね。そこにおいては団地の新しい住み方を定着させようとしている仕事と、新しい世代のために地球環境を考える取り組みをしたユーグレナの仕事はふさわしいと思いました。どちらも目指す方向性については従来から必要だと言われていたことではあるんだけど、それを実際に世の中に定着させるのがすごく難しい仕事でもあったわけですから。
また、これからのコミュニケーションは単発の花火ではなく、打ち上げたことを新しい文化として定着させることが大事になってくる。2つの仕事はどちらもそれを成し遂げた。
ユーグレナの「18歳以下のCFO募集」は単発の企画のようにも見えてしまうけれど、これからも継続していくと説明していた。団地の再生プロジェクトも、今後は新しい住み方を定着させる活動を継続していきますよね。
どちらか悩んだんですが、団地の企画は住民を主役に巻き込んだ運動体をつくるところなどに合意形成の技が光っていたと感じました。これからのPRという仕事の方向性を示唆していました。

橋田チンアナゴはものすごく好きなんですけど、PRカテゴリーという視点では、僕もユーグレナか茶山台団地再生プロジェクトがグランプリだと思います。ユーグレナは新聞広告の使い方も秀逸でしたし、CFO(Chief Future Officer)が実際に活動を続けることでメディアリレーションのハブになっていくという構造の作り方など、次の時代に向けた可能性を作り出したのが良かったと思います。
団地の再生プロジェクトは、団地の衰退を単純になんとかしたいだけじゃないんですよね。その背景には、少子高齢化や孤食の増加といった、コミュニティが希薄化することがもたらすさまざまな社会問題があります。そういった課題に対して、人の集まることの場所を再生させることが解決策になると示した。だから、団地の再生に留まらない大きな意義がある取り組みだったと思います。
4年半も担当者が住み込みで取り組んだという途方もなさも含め、さまざまな社会課題を解決する可能性を、次に続く人たちに見せてくれた、とてもいいプロジェクトだったと思います。
ユーグレナのアイデアの根本は、グレタ・トゥーンベリさん(国連気候行動サミットで世界から注目された16歳の環境活動家)じゃないかと思うんですよね。「大人ではなく、私たちに未来を考えさせてください」という演説です。日本で気候変動に関する議論を広げるために、CFOを作って発信するという日本流のアレンジ自体はいいと思うのですが、この着想の部分をどう評価しようかと迷ってしまいました。
あとPRはリザルトを重視すべきだと思っていて、その点でも団地の再生プロジェクトのほうが、今後の展開の広がりの大きさも見据えたうえで少し有利かなと感じました。

橋田くんの言ったことについてなんだけど、自分はPRの仕事はもちろんオリジナルなアイデアを考えることも重要だけど、人々のモヤモヤを顕在化してあげることで、新しい価値観の定着を促進する仕事だと思っているのね。だから、社会問題みたいなものはもともとみんなの意識の中に存在しているケースが多い。今回はCFOを募集するという「そういうやり方があったか!」というやり方を考え、それを実現したというオリジナリティがすごいんだと思う。

大八木個人的にはチンアナゴがいちばん自分にヒットしました。あのかわいらしさも含めて好きで。あまりにもトラフィックがすごすぎてサイトにつながりにくかったりもしたんですよね。ただ、もしかしたらPRというよりはプロモーション/アクティベーションなのかなとも感じました。
そのうえでグランプリには、ユーグレナを推したいと思いました。それは他社が真似しやすい仕組みになっているからです。ただ、一個だけ残念なのは、CFOを採用したあとに出したソリューションが、ペットボトルの削減など今まで言われていたものと代わり映えしないメッセージだったことで。この会社は本当に大きなビジョンを持っているはずなのに、それがメッセージに反映されていない気がしました。
だからこそグランプリを与えることで、いろんな会社の人たちがこの枠組を使い、もっとメッセージをブラッシュアップしていくように応援したかった。そういう横展開の可能性を感じさせるほど、コアアイデアの強さがありました。
団地の再生プロジェクトは素晴らしいんですけど、団地衰退のソリューションとして実施された「ニコイチ」(隣り合う住戸をつなぎ合わせることで、自由なリノベーションを促進するプラン)が、他の団地にどれくらい導入されているのか気になって。単体のソリューションとしては高く評価しますが、未来を作るPRという意味では、ユーグレナのほうが好きだし、CFOというコピーライティングのわかりやすさも含めて推したいと感じました。

三浦PRカテゴリーの今後の指針として何を示すかと考えたとき、僕はプロジェクトの成果と、使われた技術の完成度、それから社会に対して開かれた可能性の3つの基準で評価しようと思っていました。その意味でチンアナゴは、美しい花火ではあるけれども、関係性を継続的に構築し続けるPRらしい取り組みではないのかなと感じました。
団地の再生プロジェクトは、PRとしてど真ん中の取り組みではあるのですが、素晴らしいところは何よりやり抜いていることだと思うんですね。社会課題に中長期で働きかけ続けることで解決に導いた尊敬すべき仕事でした。
しかし、広告・マーケティング業界の賞であるACCのグランプリに置くべきなのは、まさに大八木さんがおっしゃったように、もっとも他社が真似しやすいという意味で、世の中に開かれているユーグレナだと思いました。それに打ち上げ花火じゃなくて、継続していくとも明言しているんですよね。

そこはすごく大事ですよね。継続すること。本気度を感じる。

三浦IRのために「いいことやってます」という取り組みではなく、企業が本気でやっていることを応援したいと個人的には思っているんです。これで来年実施されなかったら、僕らが見る目ないってことで恥をかきますけど(審査後に2代目CFOも募集された)。

それは団地の再生プロジェクトも一緒で、「この団地のためにいいことやりました」だけで終わらせるのではなく、今後どこまで広げていくのか。そこを見極めて評価しなくちゃいけないという意味で、審査委員である僕らも評価されるわけだ。

菅野2択みたいな雰囲気になったんですが、チンアナゴを応援したい人もいましたよね。

尾上僕は応援しました。カテゴリーの審査でも言ったのですが、チンアナゴの顔を見せることが水族館のPRになるというソリューションは、まず思いつかないよなって。そこが出てきたのは、クライアントとPRチームの信頼関係がしっかりしているからだと思うんですよ。パブリック・リレーションという意味でも、コロナ禍で休館したエンターテインメント施設と、一般とのリレーションを作ったという意味で評価していいのではないかと感じました。
こういうクライアントとPRチームとの継続的な関係性によって、これまでやってきたことと、これからやっていくことがまとまると、それは団地の再生プロジェクトやユーグレナがやっていることのように、大きな社会的意義あるものになっていくのではないかと感じました。

菅野発見しづらい課題を見つけてきた素晴らしいさが、チンアナゴには明らかにありましたよね。

米澤私はチンアナゴをリアルタイムで見ていたのですが、すごくアナログな手法でやっていたんですよね。フェイスタイムで電話をかけるとつながるっていう。予算的にもほぼゼロでやっているような取り組みでした。そこから水族館が置かれている状況の必死さが伝わってきたのが、すごくいいなと思いました。
あと個人的にユーグレナはちょっとだけ違和感があって。せっかくCFOを選んでも何で1期で交代しちゃうのか。19歳になるからかもしれないですけど、これだとどうしてもマスコット的に使っているように見えてしまう。本気で経営に関わらせるのであれば、1期ごとの交代ではできないと思うんですよね。そこだけが気になってしまいました。

栗林僕は団地再生プロジェクトを推しました。CFOもめちゃくちゃいいと思うし、みなさんがおっしゃるようにアイデアの汎用性もあり、大人だけではなく若い世代の考えも議論に必要だというメッセージを伝える有効な手段だと思います。でも、本当に重要なのは、どれだけ彼らと意味のあるソリューションを生み出せるかということで。そこが実現できて初めて、評価に値する取り組みだと思うんですね。
一方で団地の再生プロジェクトは、いわゆる市場調査やソーシャルボイスからアクティベーションを考えることはあるんですけど、なかなかリアルな声が含まれていないと感じていて。そうした中で、これは施策自体は地味だけど、ちゃんとリアルなインサイトを見つけ出して、しっかりワークするアクティベーションに辿り着いたのがえらいと感じています。
4年半かけて解決したのが団地の問題ですから、アイデアの汎用性は低いと感じるかもしれません。でも、きちんとインサイトを引き出してアクティベーションを展開する。そのナレッジをオープンにしていることが業界全体のためになっていると思うので、ACCで評価すべきだと感じました。そうすることで地味な取り組みに含まれている大きな価値に、みんな気が付いてくれるのではないかと。

清水すみだ水族館は前から金魚やペンギンだったり、チンアナゴ以外でもユニークな展示をやっていて。今回もそういった取り組みの延長線上に花開いたものだと感じています。PRとしてどうかと言われたらわからないけど、ずっと一貫した取り組みを行っていて、とても丁寧なブランディングではあると思いました。

佐々木僕もチンアナゴは大好きです。コロナ禍における水族館には、閉鎖された娯楽施設の経営問題や、そこでの動物たちの世話をどうするのかという社会課題が積もりに積もっているわけですよね。そうした課題に対して、電話をかけるだけという非常に簡単な入り口を作り、そこから世界中の参加者が集まって、こうした課題に目を向けるきっかけを作った。みんなで一緒に新しい水族館のエンターテインメントを確立し、しかもPR的であるところを評価したいと思いました。
ユーグレナはみなさんがおっしゃるように、まだ点の活動という印象を受けるので、もう少し線になってから評価したほうがいいのではないでしょうかと感じました。団地の再生プロジェクトに関しても、最近は日本中の団地でこうした取り組みが行われていることから、茶山台団地だけが先進的とは言い切れないところがありました。そういう意味でもチンアナゴを推しました。

原野僕もチンアナゴに電話しようというコミュニケーションはいいと思ったし、何より文脈の作り方が素晴らしいと思いました。すみだ水族館が持っている、生き物に対する愛情が漏れて出てきたように感じるんですよね。「自分たちも大変だけど、チンアナゴも気の毒なんですよ」みたいな。
コロナ禍でみんなを元気づけようと思ったときに、いろいろなやり方があると思うのですが、彼らは人間の共感や思いやりの心をすごく上手に使っていました。それでいて、相手は人間ですらない。見たことのないタイプのコミュニケーションで、アイデアのレベルがとても高いと感じました。相手が人間ではない。見たことのないタイプのコミュニケーションで、アイデアのレベルがとても高いと感じました。
ユーグレナもいいなと思いつつ、「うまいこと時流に乗ってやったな」という印象があり、来年も続けたときに今年ほどの注目度があるのだろうかと思ってしまうんですよね。だから、ゴールドには文句はないけど、グランプリは世界でも見たことのないアイデアがふさわしいと思い、チンアナゴを推しました。

嶋野私はPRカテゴリーとして、何を褒めるべきかをつかめるといいなと思って見ていました。その結論から言えば、チンアナゴとユーグレナを推しました。PRがアドバタイジングと何が違うか。僕はアーンドメディアの広がりだと思っています。
団地の再生プロジェクトはいい施策だし、アーンドメディアで広まってはいるのだけど、戦略的に仕掛けられたものとしては疑問が残っています。ここではたまたま広まったことではなく、意図的に話題になるように仕掛けたものを褒めるべきだと思うので、その意味ではこのカテゴリーはチンアナゴとユーグレナがふさわしいと感じます。

小布施僕もチンアナゴとユーグレナが好きです。特にチンアナゴは僕の妻が子どもにチンアナゴを見せたいと朝から電話していたのを知っているので、そこまで一般の人に波及力があったという意味でも素晴らしいと思いました。プロモーション/アクティベーションとしても高く評価できるので、本当はそちらのカテゴリーにあっても良かったんですよね。
ユーグレナはポストを作るという人事施策にアイデアを入れることで、これだけ世の中を動かせるのだという学びがありました。クリエイティビティの入れどころとしても評価したいので、この2つを推したいと思います。

石下チンアナゴは私も大好きです。まず「人に慣れないと顔を見せない」という習性を知らなかったんですよ。だから、キャッチャーなアイデアでありつつも、生き物の生態を伝えることを真ん中に置いているのが素敵だと思います。
ユーグレナに関しては、持続的な未来を作るという会社のスタンスからすると、CFOという施策はネーミングから素晴らしいとは思うのですが、アウトプットの仕方や話題の広がり方を見ると、ティーン層に届いてなくて、大人だけで盛り上がっているような印象があるんですよね。未来を生きる当事者にもっと議論に参加してほしいとか、ユーグレナを未来を作る企業として知ってほしいという目的があるのだとすれば、別の盛り上げ方があったのでは、と思いました。

大八木みなさんのお話を聞いていて、ユーグレナの評価を変えました。取り組み自体はいいだけに、ペットボトルやプラスチックストローの削減というソリューションが気になるんです。「その結論ならCFOはいらなかったのでは?」となってしまうのが、クリエイティビティを評価する点で残念でした。
アイデアの良さで世の中をいい方向に変えたものを評価するのであれば、これはむしろゴールドに留めるべきで、実はチンアナゴの素晴らしさが際立ってきたなと感じました。

三浦僕はユーグレナ推しでした。ペットボトルやプラスチックストローの削減は、確かにわざわざ表明するまでもなく勝手にやればいいことではあるんですよ。でも、PRにとってインターナルコミュニケーションが重要で、誰もがわかっていながら、なかなか踏み切れなかったことへの後押しとして活用したんだと思います。
石下さんがおっしゃった大人に向けた施策ではないかという疑問も、若い人たちを話題作りのきっかけにしたという側面は正直あると思うんですよね。でも、やはりこれもインターナルコミュニケーションで、社内を変え、株主を変え、それによって社外に波及させていく。彼らはスタートアップコミュニティにおいて非常に発言力のある会社なので、ユーグレナが変わることで、スタートアップ界隈も変わっていく。その波及効果の大きさは評価したいと思いました。

八木PRカテゴリーとしては、やはりユーグレナがグランプリだとは思ったのですが、ぱっと3つの施策を見たときに、「チンアナゴ、かわいいな」と思ったんですよね。そのパワーがすごくて。そう考えると、みなさんが議論してしてきたように、ユーグレナのどこか素直に褒めれられない感じは、グランプリではないのかなと思うようになってきました。
もちろん、ゴールドで十分にすごいことだし、その時点でPR施策としての技術や完成度の高さは認められたことになりますよね。それならグランプリには、ブランデッド・コミュニケーションとしてユニークなアイデアや幸せな感情を与えてくれるものを選んだほうがいいと感じます。

僕もチンアナゴはすごく面白い施策だとは思います。クリエイティビティを大事にするACCのPRカテゴリーの議論でチンアナゴが評価されるのはわかりますが、グランプリはPRパーソンの仕事の目指す方向を示唆しなきゃいけないわけで、団地の施策にはそれがあると思いました。やはり、世の中に新しい概念を作り出すって大きなところで仕事をする方向にPRインダストリーが向かって欲しいから。

原野ユーグレナのアイデアは、PRではよくある施策ではあるじゃないですか。1日観光大使や1日警察署長みたいなもので。その呼び名がCFOになった以上のものがあるのか。そこがグランプリに値するかどうかの分かれ目だと思いました。
ペットボトルやプラスチックストローの削減というソリューション自体は、それほど重要じゃないんだという意見はあるけれども、そこがなかったら、まさに「呼び名を変えた」というアイデアをどう評価するかという話になると思うんです。でも、チンアナゴはアイデアをまったく見たことがない。世界の人も驚いた。そこが3つの中ではグランプリにふさわしい点だと思いました。

イムグランプリを必ず選ばなければならないというわけではないですよね? 僕はみなさんのお話を聞いて、どれもグランプリではないのかなと思いました。ユーグレナを推したい気持ちもあるのですが、いろいろ資料を見る中で、せっかくCFOという役職で高校生を抜擢したのだから、大人たちがサポートしたうえで、経営陣としての裁量で改革を進めていく過程がもっと見られたら良かったと思いました。

細川私は団地の再生プロジェクトを応援したいと思います。PRは既成概念を変えることで、世の中の風向きを変えることが大事なポイントだと思っているのですが、その意味では団地という「あまり積極的に住みたいとは思われない場所」を、社会課題を解決する場所の最先端のようなイメージに変えた。しかも、企業が上からこうやれと言ったわけではなく、住民の人と一緒に変えていった。そこが素晴らしいと思っています。
共創とよく言われますけど、そんなに成功事例ってないと思うんです。だから、こういうかたちできちんと成功事例を作り、それが日本全国に広まっていく流れになっているのは、ちゃんと評価したいと思います。あとは長く関わることでみんなと成し遂げるみたいな施策が個人的に好きなので、これをグランプリに推しました。

井上みんながチンアナゴを大好きだということはよくわかりました。PRでチンアナゴが残ったのはすごく面白いと思っているものの、まずはプロモーション/アクティベーションでも応募してほしかったですね。そこは率直に思いました。
ユーグレナはテクニカルな施策で、PRで評価されやすい典型例だと思うのですが、私は団地の再生プロジェクトを推しました。長期的な取り組みだし、何より本気で社会課題を解決しようとしているところがすごくいいと思っていて。この人たちは今後も続けていきそうだし、「ニコイチ」だけじゃない解決の方法も見つけていきそうだという印象があります。だから、取り組みの未来性も含め、これを褒めてあげたいという気持ちが強いですね。チンアナゴはチャーミングという意味で、別のカテゴリーで褒めてあげたいと思いました。

畑中今一度、団地の再生プロジェクトの概要説明を見ると、「住民で団地の未来を変えられる」と書いてあり、これがPRなのかなと思ったというか。すごいアイデアというより、住民が考えたことを着実に実現する。それが衰退する団地の未来を変えることになる。そのモデルケースが見せられたのだとすれば、日本の未来に向けた解になるという意味で、まっすぐなPRだと思いました。
チンアナゴは、これがPRカテゴリーのグランプリになったときに、自分がなんて「すごいPR」と説明するのかわからなくて。嶋さんが言うように僕らは選考の説明責任を負うので、そこがすっと納得できれば、もっとすんなり選べるのになとは思っていました。

上西今回は3つともすごいんですけど、3つとも少しずつ疑問があったんですよ。まずチンアナゴはかわいいしアイデアも素敵なのですが、井上さんがおっしゃるように、「プロモーション/アクティベーションに応募してくれれば」と思っちゃいました。
ユーグレナに関しては、最近の世の中で若者や女性を消費するような施策が多いのではないかと気になっていて。そこに引っ掛かるところはあるんですけど、どこかがまず始めないと広まっていかないから、これはこれで価値のある取り組みだとは思います。ただ、「どれだけ本気なの?」っていう。広告的な打ち上げ花火じゃないかという疑問がずっとありました。
団地の再生プロジェクトは、DIYのできる団地という解決の仕方が、暮らし方の変化に対する解決策として、すでにあるような気もしていて。それに団地に含まれる社会課題のソリューションとしても、どこまで普遍的なものなのかなと。そこが引っ掛かるポイントではありました。だから、どれをグランプリに選ぶべきなのか……、全然わからないというのが正直なところでした。

東畑ユーグレナは、この企業が持っているボイスに近い施策になっているところがいいなと思ったし、こうして議論を巻き起こす施策という意味でも、PRとしての技があると思いました。チンアナゴは心の中に残る時間の質が好きだなと思っていて。コロナ禍においてさまざまな応援施策があった中で、親子でチンアナゴを見た時間というような記憶の残り方が、本当にいいと思いました。
だから、理性的なPRというカテゴリーにおいてはユーグレナのほうが推しやすいのですけど、ブランデッド・コミュニケーションという文脈では、チンアナゴのほうがオリジナリティとユニークネスがあると思います。そこで葛藤してしまって。ごめんなさい。

保持ゴールドの施策に「惜しい」というのは失礼だと思うのですが、「これがグランプリなのは、こういう理由なんだよ」と説明するには、それぞれの施策に難しいところがあると僕も思いました。唯一、チンアナゴが生理的に素直に素晴らしいと感じたので、グランプリの選考理由をどうしようかなと思いつつ、一歩リードかなと感じでした。

小杉動物をどう魅せたらいちばん魅力的かというところまで含めてPR的に設計しているという意味で、チンアナゴを推しました。あとは東畑さんがおっしゃるように、PRカテゴリーであることを考えると、ユーグレナでも迷いました。

菅野たくさんのご意見を伺うことができましたが、議論だけで結論が出ず、それぞれの意見があったので、投票に結果を委ねました。結果は「4年半の茶山台団地再生プロジェクト」が5票、「Chief Future Officer」が2票、「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」が8票、そして「グランプリ該当なし」が8票ありました。つまり、まさかの「チンアナゴか、このカテゴリーではグランプリなしか」ということに!

ブランデッド・コミュニケーションという部門が立ち上がったときに、コミュニケーションを仕事の領域とするさまざまなバックグラウンドの人たちが集まって審査するようになって、それはすごくいいなと思いました。PRパーソンである自分がデザインを評価したり、デザイナーがPRの施策を評価するっていうことをね。
でも、PRとは第三者を巻き込んだ合意形成ってことをPR業界の人たちが今までちゃんと提示してこなかったこともあるんだけど、ACCのこのカテゴリーの議論もPRって何ってところから始まることも多かったし、この作品はなんとなくPRっぽいからこのカテゴリーで褒めておこうってこともあって、そのたびに心がザワザワしてきた部分もあった。でも、その議論自体は新しい視点もあって新鮮でもあって、その議論を通じてACC的なPRって概念をしっかり打ち立てられたらよかったんだけど、そこまで明確な言語化もできなくて。
PRインダストリーの中ではパブリシティを獲得する仕事から、社会合意を形成する仕事を目指そうって大きい流れもあって、グランプリ作品にはそういう未来を包含したいなという想いもあったので、団地の評価がそこまで達しないのであれば該当作なしもやむを得ないと思いました。

三浦僕もPRの本質は、複数の関係主体との合意形成にあると思って仕事してきました。だから、チンアナゴは水族館と顧客をつなぐことには機能したのですが、関係主体との合意形成としてはすごく狭いので、今年ACCが認めたもっとも素晴らしいPRプロジェクトにするのは、ちょっとわからないかなと思いました。

嶋野業界を背負うかどうかはそれぞれの立場があるので何とも言えないところではあるのですが、PR業界の賞として日本にもPRアワードグランプリという立派なものがありますから、あくまでACCはACCとして評価していいのではないでしょうか。

菅野チンアナゴをPRとして褒めるのがしっくりこない、これはプロモーション/アクティベーションではないかという意見も根強くありました。個人的にはカテゴリーよりもアイデアが先行しているべきで、いいアイデアだったら新しいカテゴリーをあとから創設するくらいの気持ちで審査に望みたいと思っていました。なので、PRカテゴリーには当てはまらないけど、ブランデッド・コミュニケーション部門として褒める余地は残しておきたいと思います。しかし、よく2時間もチンアナゴで議論しましたね。
これだけ議論した結果については、堂々と誇りたいと思います。
そのうえで「チンアナゴか、グランプリなしか」の決選投票を行いました。その結果、「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」が8票、「グランプリ該当なし」が14票。Cカテゴリーは「グランプリ該当なし」と決まりました。

【特別賞】

菅野議論の中で特別賞の提案がいくつかありましたので、そこを検討しました。まずはBカテゴリーの「ポカリスエット『ポカリNEO合唱』」です。

上西Bカテゴリーを審査したときも議論になったのですが、ブランデッド・コミュニケーション部門なのにブランディングを褒める場所がなかったと思うんですね。ポカリスエットはブランディングとしても、コロナ禍という時代性でのキャンペーンとしても素晴らしいと思っているので、特別賞にふさわしいと思いました。それから「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」も、PRとしてどうかという議論で評価を下げてしまった部分があるので、特別賞をあげていいんじゃないかと感じました。

大八木特別賞をあげる前に、その意義はどういうものか議論したほうがいいと思った。私としては2020年は特別な年で、そういうときでなければ生まれなかったクリエイティビティを評価する賞なのかなと。そのうえで2つよりは1つを選ぶほうが意義も伝わりやすいと感じました。

井上上西さんもおっしゃったように、ブランディング施策としてはいいけれど、カテゴリー内の評価として難しいものがいくつかあって。特にBカテゴリーでは「KANEBO 『I HOPE.』」とトヨタ自動車の「5大陸走破プロジェクト」が、どう評価したらいいものか議論になったんですよね。

細川私は「5大陸走破プロジェクト」がずっと気になっています。ブランデッド・コミュニケーションを「ブランドを作るために広告ができることは何か」という大きな枠組みとして捉えたときに、あのコミュニケーションはちゃんとワークしてブランドの役に立っているのではないかという気がしていて。
主な目的はインナーコミュニケーションだとは思うのですが、あれほどのクオリティの施策をかなりの年月をかけて行ったことに、これからの広告の可能性をすごく感じました。既存の枠では評価しづらいという意味でも、ブランデッド・コミュニケーションの特別賞にすごくふさわしいのではないかという話ができれば、悔いは残らないです。

大八木ブランデッド・コミュニケーション部門にデザインのカテゴリーがあったときは、デザインドリブンのソリューションをちゃんと評価できた気がするんですよ。その意味ではカテゴリーを一個失ったことの苦しみが、このトヨタのプロジェクトを選びきれなかったところに表れたと思います。
特別賞を与えるかどうかという議論とは別に、ブランデッド・コミュニケーション部門の中にデザインカテゴリーがあったからこその良さ、昨年でいうと日清食品の「NISSIN KANSAI FACTORY」をグランプリに選出できたような良さがなくなってしまうのは寂しいと感じました。次年度以降のカテゴリーの定義付けも含め、企業の志そのものを広告的な手法を通してアセットにするのは、僕らのスペシャリティそのものなので、そういう施策に光は当てていきたいですね。

小杉菅野さんもおっしゃっていたのですが、広告賞の部門に仕事を当てはめていくというより、優れた仕事に対して審査をしていくという褒め方がいいよねと考えると、カテゴリーの分類にうまくはまらない仕事に名前を付けて褒めていくという考え方は、とてもいいと思います。

八木ポカリスエットは各カテゴリーでの議論が分かれた経緯があって、だから特別賞を出すのがいいのかなと僕も思ったのですが、そこからさらにデザインドリブンみたいな賞をあげ始めたら、まずきりがないし、大八木さんが最初におっしゃった今年ならではの特別感が希薄になってしまうのではないかと思いました。

清水もし特別賞がグランプリ相当なのだとしたら、僕も2つでは多いとは感じました。では各カテゴリーの分類を超えて評価すべきものは何か。ブランデッド・コミュニケーション部門ということで、最終的にブランドに価値が戻ってきている仕事、そして脈々と受け継がれてきたブランドのマナーが反映されている仕事、そういうものを選ぶべきだという意味で、僕はチンアナゴだと思いました。

原野Cカテゴリーだけグランプリの投票の仕方が、3つからどれかを選ぶかではなく、該当なしも含めて選ぶことに変わったと思うんですよ。それはPRかどうかという議論があったからではあるのですが、グランプリに決まったものを撤回したわけではなかったんですよね。その意味でいうと、チンアナゴは他の候補があったとしても本来は別格の魅力があると思いました。

菅野前年もAカテゴリーでグランプリなしがあったように、必ずどれかを選ばなくてはならないということではないのですが、今回のCカテゴリーは8人もどこに投票しないという決断をした人がいたことから、審査の難しさが表れていると思います。あとは特別賞をいくつ出すかが議論のテーマとなりました。

東畑特別賞は出すとしても1つだと思いました。ゴールドはゴールドとしてちゃんと評価されているわけで。

菅野その意味では「KANEBO 『I HOPE.』」と「5大陸走破プロジェクト」は、特別賞にするにしても基準が違うという議論がありましたね。ポカリスエットやチンアナゴと違い、「カテゴリーの基準に沿わず、ブロンズ止まりで残念だった」ということでしたから。
「KANEBO 『I HOPE.』」と「5大陸走破プロジェクト」は特別賞ではなく、議事録で取り上げたことで、来年以降への問題提起とするということが挙手で決まりました。
また、特別賞はひとつでいいという意見が複数ありました。

井上私はBカテゴリーのグランプリにゼスプリキウイを選びましたが、ここはすごくいい施策がたくさんあったんですよね。特にポカリスエットは捨てきれなかった。レベルの高いカテゴリーだったからこそ、グランプリを2個出しても良かったんじゃないかという思いから、ひとつはポカリスエットで、もうひとつはPRで褒めきれなかったという意味で、チンアナゴの両方受賞がいいのではないかと思いました。

保持もともとその他部門として始まったブランデッド・コミュニケーション部門の中で、特別賞はさらにその他の素晴らしいものを褒める賞という気がしたので、僕は1個に限定するのがいいかなと思いました。

菅野その後、事務局と審査委員長で相談して、グランプリ相当として特別賞を2個出せるとの見解を得て、「ポカリスエット『ポカリNEO合唱』」と「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」が特別賞にふさわしいかどうか投票をすることになりました。
「ポカリスエット『ポカリNEO合唱』」は多数決により賛成8、反対9で特別賞から落選。「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」は賛成11、反対6で特別賞受賞と決まりました。